持久戦論
使者がいなくなった後、パターソンは「う~ん」と難しい顔をして腕を組み、応接室のドアに目を遣りながら、
「カトリーナ様、本当に、あのような形で使者を追い返してよかったのでしょうか。相手はマーチャント商会です。もし相手が本気になれば、正面から戦って勝てる相手でありません。ドラゴニアと連合するとしても、動員できる兵力には、かなりの差があります」
パターソンの話によれば、マーチャント商会がドラゴニアを攻撃するとした場合、動員できる兵力は10万人以上であり、かつ、お抱えの魔法使いによる魔法支援も可能。これに対し、ドラゴニアとウェルシーの兵力は最大で2万数千人程度であり、隻眼の黒龍、メアリー、マリアの魔法支援等々を考慮に入れるとしても、常識的に見ると勝てる可能性は非常に低い形勢だという。
「よくないかもしれないけど、この場合は構わないわ。多分、ノー・プロブレム。何も、相手をやっつけるだけが戦争じゃないわ」
パターソンは、「ハテ」と首をひねっている。でも、勝てる可能性は非常に低い戦いでも、負けないで引き分けに持っていくことはできるのではないか。すなわち、我が方(すなわち、ドラゴニア騎士団)に地の利のあるドラゴニアにて、攻め寄せるマーチャント商会の軍勢を迎え撃ち、たとえ少ない兵力であっても効率的に運用し、場合によってはゲリラ戦で補給線を脅かすなどすれば、理論的には、少なくとも持久戦には持ち込むことができるだろう。マーチャント商会会長は本質的には商人だから、ドラゴニアでの戦費がかさみ(すなわち、戦費が、戦争に勝利することで得られる利得を上回り)、この戦争が割に合わないと合理的に判断すれば、講和に応じることになると思う。
ちなみに、この間も、応接室から廊下に出たところでは、アメリアとアンジェラの天然ボケ・ツッコミのコントが続いていた。
「では、アンジェラさん、え~っとですね……、人さらいに見つからないように、この木箱を、こうして、スッポリと頭から……」
「でも、これでは、余計、目立ってしまいますよ」
「え~っと、大丈夫です。慣れれば分かりません。はい、多分、そう思います」
「『慣れれば』ですか?」
「そうです、そこは、え~っと、気合いです!」
どういう話の流れになってるのか知らないけど…… のみならず、二人の間に会話のキャッチボールが成立しているとは思えないけど……
パターソンは、二人のやり取りを横目に、
「まあ、アメリアとアンジェラは、いつものこととして…… マーチャント商会に使者に対しては、やはり、もう少し穏やかにと言いますか、優しい言い方もあったような気がするのですが……」
「こっちが優しくしたって、相手が優しくしてくれるわけじゃないし……」
すると、パターソンは「はは……」と苦笑しつつ、
「それは確かに……」




