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ザ☆旅行記ⅩⅠ ドラゴニア戦記  作者: 小宮登志子
第4章 デフォルトと戦争
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乗りかかった船

 会場では、騎士たちが口々に大きな声を出し始め、「話し合い」は今や、収拾のつかない状態へと陥りつつあった。本来であれば事態を収めるべき御曹司は「あばばばば」と、完全に平静を失っていて、仲間を殺されたマーチャント商会の使者(残りのふたり)は、恐怖のあまり体を硬直させている。

 そんな中、アース騎士団長がゆっくりと立ち上がり、静かに口を開いた。

「諸君、少し落ち着きたまえ。ここは、あくまでも「話し合い」の場だ。無秩序に好き勝手を言い合う場ではない」

 すると、騒然としていた会場は徐々に静まり、ニコラスも剣を鞘に収めて自らの席に戻っていった(なお、この間に、斬り殺されたマーチャント商会の使者の遺体は、ドラゴニア侯爵家の使用人もしくは騎士の従者らしい人たちにより、どこかに運ばれていった)。

 騎士団長は、おもむろにゴホンとひとつ咳払いをし、会場内を見回すと、

「今、わが主君の提案に続き、騎士、ニコラス・ロバート・バーナード・アースから、『今後一切、断じて、マーチャント商会への債務を支払わない』という、別の提案があった。このことについて、諸君の見解を聞きたい」

 その結果については……、この期に及んでは言うまでもないだろう。満場一致をもって、ニコラスの提案が可決されたのだった。


 アース騎士団長は、わたしに顔を向け、「発言があれば、どうぞ」のサイン。

 わたしは軽くうなずいて、(アンジェラの両目から手を離すと)伝説のエルブンボウを高くかざし、

「ドラゴニアの騎士の皆さん、これがなんだか分かりますか? 先代ドラゴニア候より拝領した伝説のエルブンボウです。今にして思えば、先代ドラゴニア候は素晴らしい人でした。ドラゴニアを愛し、ドラゴニアを云々……」

 と、ここは、あることないこと織り交ぜて、ご隠居様すなわち先代ドラゴニア候を大いに持ち上げるところ。そして、最後に、言わば仕上げとして、

「こうなれば、『乗りかかった船』です。ウェルシーは最後まで、ドラゴニアを全面的に支援し、決して単独で講和しないことを誓いましょう」

 すると、並み居る騎士から、「うぉー」という大歓声が上がった。

 かくして、ドラゴニアの「総意」でもって、マーチャント商会への債務の不払い(このことは、マーチャント商会への宣戦布告をも意味している)が決まった。


 その翌日(時間的には昼前)、ドラゴニアン・ハート城の中庭にて、わたしはアンジェラとともに隻眼の黒龍に乗り、ドラゴニアの騎士たちの見送りを受けていた。すぐにドラゴニアを発つ必要はないとは思うけれど、これ以上、マズイ(場合によっては命に関わる)料理を食べさせられてはたまらない。

 ちなみに、マーチャント商会の使者ふたりは、昨夜のうちに逃げるようにドラゴニアを去り、御曹司は(どうでもいい話だけど)、現在、顔面蒼白になって自室にこもっているらしい。

「マスター、用意はいい? 出発するよ」

 隻眼の黒龍は、巨大なコウモリの翼をさらに大きく広げ、ゆっくりと大空に舞い上がった。

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