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ザ☆旅行記ⅩⅠ ドラゴニア戦記  作者: 小宮登志子
第4章 デフォルトと戦争
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不払い宣言

 ニコラスは、御曹司のいる正面の席に向かって、深々と頭を下げた。

 そして、騎士たちの視線が彼の一身に注がれる中、ニコラスはゆっくりと頭を上げると、大きく息を吸い込み、

「私は、末席とはいえ、誇りあるドラゴニアの騎士として、この命を、いつでも、ドラゴニアのために捧げる覚悟ができています!」

「分かった、分かった。それで、命を捧げてどうする?」

 御曹司は、うんざりとした顔で言った。顔つきにせよ、声のトーンにせよ、あからさまに「そんな話は聞きたくない」といった雰囲気。

 ところが、ニコラスは挑発的に、一層、声を大にして、

「私には難しいことは分からないのですが、この度のわが君のご提案は、本当にドラゴニアのため、利益になるのでしょうか。私には、とてもそうは思えないのです!」

「なっ、何を、馬鹿な! ドラゴニアの利益になるに決まっておろうが!!」

 御曹司は、顔を真っ赤にして言った。ただ、この場でのニコラスの発言は想定外だったのか、その声は、少々上ずっているようだ。

 ニコラスは、御曹司に負けじとの心意気か、大袈裟にドンと音を立てて床を踏みしめ、

「だったら、そこにいるマーチャント商会の犬どもは、なんだ!!!」

 と、芝居がかったジェスチャーで、アース騎士団長の隣にいる3人の男たちを指さした。

「マーチャント商会は、ドラゴニアの窮迫につけ込み、法外な利息を取って、ドラゴニアの富を根こそぎ持ち去ろうとしている。そんな火事場泥棒のようなヤツらと席を並べるなど、言語道断だ!」

 ニコラスは剣を抜き、つかつかと正面の席に歩み寄った。これから何が起こるのか、あえて言うまでもないだろう。わたしは慌てて、両手をアンジェラの両目に当てた。


 ニコラスは、剣を振り上げると、大音声を上げて、

「戻って、おまえたちの親分に伝えよ! 『ドラゴニアは、今後一切、断じて、マーチャント商会に債務を支払わない』と!!」

 そして、3人の男たちのうちのひとりを、一刀両断に斬り殺してしまった。


 会場は、一瞬、しんと静まりかえった。アース騎士団長は、目を丸くしてニコラスを見つめている。視界を塞がれているアンジェラは、何が起こっているのか分からず、しかし、大変なことになっていると感じる部分はあるのだろう、身じろぎ一つしない。

 そして、数秒後(ただし、体感的には数十秒後)には、会場のあちこちから、ニコラスの友人たちだろう、「ニコラスの提案に賛成」の声が上がった。やがて、友人以外の騎士たちもニコラスに同調を始めたのか、「賛成」の声はだんだんと大きくなっていく。こうなれば、流れはデフォルト。元々人望のない御曹司では、止めようがない。

 ただ、この時の御曹司は、斬り殺された男の死体を見て、真っ青になって震え上がっていたので、いずれにせよ、どうにも使い物にならない状態ではあったが……

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