何か言わなければ
しばらく待っていると、会場のドアが開き、
「待たせたな、わが忠勇なる騎士たちよ! 大切な客人をお連れしたぞ!!」
と、御曹司が機嫌良く現れた。その後ろには、中肉中背、これといった特徴のない3人の男たちが続いている。御曹司は、バカが付くほど丁寧にこの男たちを案内し、正面の席、アース騎士団長の隣に順番に着席させた。そして、おもむろに軽い咳払いをして(3人の男たちの紹介はないが、正体は言わずもがな、マーチャント商会の代理人たちだろう)、
「では、これから話し合いを始めよう。資料は既に配付しているはずだが、早い話、ドラゴニアの復興に対する本気度を知りたいだけだ。諸君の忌憚ない意見を聞かせてほしいが、もし、なければ、それでも構わない。一向に構わないぞ」
御曹司の、口調は滑らかに、しかし、何を言いたいのかよく分からない発言が続く。アース騎士団長は、相変わらず目を閉じ口を「へ」の字に結んだまま。並み居る騎士たちは、一様に下を向き、御曹司の話を聞いているのか聞いていないのか(あるいは居眠りしてるのか)、見ただけでは分からない状態。
「……であるからして、こういうわけなのであり、慎重な審議の上、速やかな賛成を求めるものであ~る!」
何が「であるから」なのかも、何が「こういうわけ」なのかもサッパリ分からないが、流れ的には、一応、「話し合い」の議題に関し、御曹司からいわゆる提案理由の説明が終わったということだろう。御曹司は、3人の男たちに目を遣り、ニッコリとウィンク。3人の男たちは、御曹司に顔を向け、一斉にニヤリ。今のところ、御曹司(及びマーチャント商会)の目論見どおりに進んでいるようだ。
御曹司は気分よさそうに、さらに言葉を続け、
「御発言はないかな? なければ、全員一致の賛成を確認したいと思うが……」
すると、アース騎士団長はサッと眉をひそめ、わたしに顔を向けた。「何か言わなければ、大変なことになりますよ」ということだろう。言葉で言われなくても、察しはつく。でも、わたし自らが口を開くまでもなさそうだ。
その時、末席のニコラスがすっくと立ち上がった。そして、身構えるように周囲をグルリと見回すと、演説口調となって、
「私は騎士団長、ロバート・バーナード・ジョン・アースの嫡子、ニコラス・ロバート・バーナード・アースです。騎士になったばかりの若造ですが、僭越ながら、ひと言、申し上げたい」
並み居る騎士たちはどよめき、「なんだ、なんだ」と口々にささやき合った。彼らにとっては予想外の展開なのだろう。ただし、アース騎士団長は無反応。再び目を閉じ、口を「へ」の字に結んでいる。
御曹司は顔を歪め、憎々しげにニコラスをにらんだ。しかし、一応、適法かつ平穏な発言の申し出と解さざるを得ない以上、(末席の騎士の発言が前例になくても、事前に発言通告がなされていなくても)発言を禁止するわけにはいかないようだ。御曹司は「チッ」と舌打ちして、「申してみよ」という意味だろう、首を縦に振った。




