表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ☆旅行記ⅩⅠ ドラゴニア戦記  作者: 小宮登志子
第4章 デフォルトと戦争
30/293

何か言わなければ

 しばらく待っていると、会場のドアが開き、

「待たせたな、わが忠勇なる騎士たちよ! 大切な客人をお連れしたぞ!!」

 と、御曹司が機嫌良く現れた。その後ろには、中肉中背、これといった特徴のない3人の男たちが続いている。御曹司は、バカが付くほど丁寧にこの男たちを案内し、正面の席、アース騎士団長の隣に順番に着席させた。そして、おもむろに軽い咳払いをして(3人の男たちの紹介はないが、正体は言わずもがな、マーチャント商会の代理人たちだろう)、

「では、これから話し合いを始めよう。資料は既に配付しているはずだが、早い話、ドラゴニアの復興に対する本気度を知りたいだけだ。諸君の忌憚ない意見を聞かせてほしいが、もし、なければ、それでも構わない。一向に構わないぞ」

 御曹司の、口調は滑らかに、しかし、何を言いたいのかよく分からない発言が続く。アース騎士団長は、相変わらず目を閉じ口を「へ」の字に結んだまま。並み居る騎士たちは、一様に下を向き、御曹司の話を聞いているのか聞いていないのか(あるいは居眠りしてるのか)、見ただけでは分からない状態。

「……であるからして、こういうわけなのであり、慎重な審議の上、速やかな賛成を求めるものであ~る!」

 何が「であるから」なのかも、何が「こういうわけ」なのかもサッパリ分からないが、流れ的には、一応、「話し合い」の議題に関し、御曹司からいわゆる提案理由の説明が終わったということだろう。御曹司は、3人の男たちに目を遣り、ニッコリとウィンク。3人の男たちは、御曹司に顔を向け、一斉にニヤリ。今のところ、御曹司(及びマーチャント商会)の目論見どおりに進んでいるようだ。


 御曹司は気分よさそうに、さらに言葉を続け、

「御発言はないかな? なければ、全員一致の賛成を確認したいと思うが……」

 すると、アース騎士団長はサッと眉をひそめ、わたしに顔を向けた。「何か言わなければ、大変なことになりますよ」ということだろう。言葉で言われなくても、察しはつく。でも、わたし自らが口を開くまでもなさそうだ。


 その時、末席のニコラスがすっくと立ち上がった。そして、身構えるように周囲をグルリと見回すと、演説口調となって、

「私は騎士団長、ロバート・バーナード・ジョン・アースの嫡子、ニコラス・ロバート・バーナード・アースです。騎士になったばかりの若造ですが、僭越ながら、ひと言、申し上げたい」

 並み居る騎士たちはどよめき、「なんだ、なんだ」と口々にささやき合った。彼らにとっては予想外の展開なのだろう。ただし、アース騎士団長は無反応。再び目を閉じ、口を「へ」の字に結んでいる。

 御曹司は顔を歪め、憎々しげにニコラスをにらんだ。しかし、一応、適法かつ平穏な発言の申し出と解さざるを得ない以上、(末席の騎士の発言が前例になくても、事前に発言通告がなされていなくても)発言を禁止するわけにはいかないようだ。御曹司は「チッ」と舌打ちして、「申してみよ」という意味だろう、首を縦に振った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ