宴会はお開きに
並み居る騎士たちは、「なんだ、なんだ」と、正面の席に顔を向けた。しかし、アース騎士団長が射るような眼光で一同をにらみつけると、騎士たちは、顔を合わすまいと、下を向いたり横を向いたりして視線をそらせた。
騎士団長は、やがて、「ふぅ~」と大きく息をはき出し、
「失礼いたしました。私としたことが、感情を抑制できなくなり、つい……」
「いえ、お構いなく。ところで、その『感情を抑制できない』原因とは、一体?」
「それは…… くそっ! 思い出すだけでも腹が立つ!! この年になると、本当は、血圧が上がるのは良くないのですがね!!!」
アース騎士団長は、込み上げてくる怒りをどうにかこらえている様子。
「さすがに今回は、わが主君に愛想がつきましたよ」
騎士団長の話によれば、先刻、御曹司と連れだって宴会場を出たのは、明日の『話し合い』に出席するためにやって来たマーチャント商会の代理人を迎えるためだという。マーチャント商会関係者の送迎自体はいつものことだが、今回に限っては、代理人を迎える際の御曹司の態度があまりにも情けなかったので、つい頭に来て「ぶん殴ってやろうか」と思ったほどだったとか。ただ、何が「情けない」かについては、「主君の恥になることは、ちょっと」とのことで、教えてくれなかった。気になるが、騎士としての守秘義務みたいなものがあるなら仕方がない。御曹司としては、ドラゴニアの債務の返済の目処がついたと思って、つい、ハメを外しすぎたのだろう。
わたしは、内心、騎士団長による肯定的回答を5%程度期待しつつ、
「いっそのこと、ドラゴニア侯をどこかに閉じこめて、マーチャント商会に宣戦布告してはいかがですか?」
「本当に、そうしたくなりましたよ。わが主君の『ご乱心』ということで」
しかし、騎士団長は、ここでハッとしたように口をつぐみ、
「私としたことが、とんでもない…… 今の話は、聞かなかったことにしていただきたい」
その後も宴会は続いた。しかし、御曹司は、主賓のわたしをほったらかしたまま、いつまでたっても宴会場に戻らなかった。
アース騎士団長は、御曹司に対し憤懣やるかたないといった様子で、
「わが主君は、常識さえわきまえず、一体、何をしてるんだか……」
わたしは、適当に騎士団長に合わせ、
「困ったことですね。本当に、何をしてるんでしょうね」
「マーチャント商会の代理人の機嫌をとるのに夢中になっているか、おだてられて舞い上がっているか、そのどちらかでしょう! まったく!!」
プチドラは、「ドラゴニアワインのつもりで前祝い」などとつぶやきながら、大きな口を開け、粗悪品のアルコール類を次々と、まるで水のように流し込んでいる。とりあえず今は、目の前にある酒で酔っ払っておこうということだろうか。
わたしとアンジェラは、アース騎士団長の助言を受けながら、食べても危険がないものを選り分けて口に運んだ。ただ、味は言わずもがな。とりあえず、害がないだけで、よしとしよう。
結局、御曹司が戻らないまま、宴会はお開きとなった。




