表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/293

宴会はお開きに

 並み居る騎士たちは、「なんだ、なんだ」と、正面の席に顔を向けた。しかし、アース騎士団長が射るような眼光で一同をにらみつけると、騎士たちは、顔を合わすまいと、下を向いたり横を向いたりして視線をそらせた。


 騎士団長は、やがて、「ふぅ~」と大きく息をはき出し、

「失礼いたしました。私としたことが、感情を抑制できなくなり、つい……」

「いえ、お構いなく。ところで、その『感情を抑制できない』原因とは、一体?」

「それは…… くそっ! 思い出すだけでも腹が立つ!! この年になると、本当は、血圧が上がるのは良くないのですがね!!!」

 アース騎士団長は、込み上げてくる怒りをどうにかこらえている様子。

「さすがに今回は、わが主君に愛想がつきましたよ」

 騎士団長の話によれば、先刻、御曹司と連れだって宴会場を出たのは、明日の『話し合い』に出席するためにやって来たマーチャント商会の代理人を迎えるためだという。マーチャント商会関係者の送迎自体はいつものことだが、今回に限っては、代理人を迎える際の御曹司の態度があまりにも情けなかったので、つい頭に来て「ぶん殴ってやろうか」と思ったほどだったとか。ただ、何が「情けない」かについては、「主君の恥になることは、ちょっと」とのことで、教えてくれなかった。気になるが、騎士としての守秘義務みたいなものがあるなら仕方がない。御曹司としては、ドラゴニアの債務の返済の目処がついたと思って、つい、ハメを外しすぎたのだろう。

 わたしは、内心、騎士団長による肯定的回答を5%程度期待しつつ、

「いっそのこと、ドラゴニア侯をどこかに閉じこめて、マーチャント商会に宣戦布告してはいかがですか?」

「本当に、そうしたくなりましたよ。わが主君の『ご乱心』ということで」

 しかし、騎士団長は、ここでハッとしたように口をつぐみ、

「私としたことが、とんでもない…… 今の話は、聞かなかったことにしていただきたい」


 その後も宴会は続いた。しかし、御曹司は、主賓のわたしをほったらかしたまま、いつまでたっても宴会場に戻らなかった。

 アース騎士団長は、御曹司に対し憤懣やるかたないといった様子で、

「わが主君は、常識さえわきまえず、一体、何をしてるんだか……」

 わたしは、適当に騎士団長に合わせ、

「困ったことですね。本当に、何をしてるんでしょうね」

「マーチャント商会の代理人の機嫌をとるのに夢中になっているか、おだてられて舞い上がっているか、そのどちらかでしょう! まったく!!」

 プチドラは、「ドラゴニアワインのつもりで前祝い」などとつぶやきながら、大きな口を開け、粗悪品のアルコール類を次々と、まるで水のように流し込んでいる。とりあえず今は、目の前にある酒で酔っ払っておこうということだろうか。

 わたしとアンジェラは、アース騎士団長の助言を受けながら、食べても危険がないものを選り分けて口に運んだ。ただ、味は言わずもがな。とりあえず、害がないだけで、よしとしよう。

 結局、御曹司が戻らないまま、宴会はお開きとなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ