あることないことその場の創作
わたしは、おもむろにニコラスの耳元に顔を近づけ、
「あなたのお父様、つまり騎士団長によれば、明日、『話し合い』が行われるらしいわ。あなたも出席するの?」
「もちろんです。しかし、残念ながら、その詳しい内容は教えてもらっていません。父からは、『満場一致の拍手の際には、とりあえず、みんなに合わせておけ』と言われていますが」
ニコラスには、詳しい話は伝わっていないようだ。御曹司の企ては、どさくさに紛れてわたしをドラゴニアの債務の連帯保証人にすることにあるようだが、ここは、ニコラスをダシに使って、御曹司の策に乗せられたフリをしながら、一泡吹かせてやろう……と、わたしは、内心、ニヤリ。
しかし、わたしはその「ニヤリ」をおくびにも出さず、
「お父様の言われるように、『とりあえず、みんなに合わせて』おけば、もしかすると、本当に大変なことになるかもしれないわ」
「えっ、それは、どういうことですか。『大変なこと』とは、一体!?」
その瞬間、ニコラスの顔は紅潮していた。のみならず、握りしめた拳には、相当の力がこもっている様子。「話し合い」の具体的内容は知らないようだけど、おそらく、「ドラゴニアにとって不利益なことだ」という具合に、想像力を働かせているのだろう。
わたしは「ふぅ」と、ため息をつくフリをして、
「ドラゴニア侯からも騎士団長からも口止めされているんだけどね……」
「教えて下さい! 父には内緒にします!! 決して、迷惑はおかけしません!!!」
ニコラスはグイと、更に身を乗り出した。
「そこまで言うのなら、話してあげるわ」
わたしはニコラスの耳元でヒソヒソヒソと、あることないこと、あるいはその場での適当な創作を取り混ぜ、ドラゴニアの運命についての悲観的な未来予測を……、すなわち、ドラゴニアの債務の返済のためにドラゴニア侯領を(丸ごと)一旦マーチャント商会に代物弁済するが、身分秩序上の理由から(商人は諸侯になれないため)、後日、わたし(ウェルシー伯)が相応の金額を支払って、ドラゴニア侯領を買い戻すこと、代物弁済の時点でドラゴニア騎士団の大幅な人員削減が行われ、多くの騎士は領地を召し上げられた上にドラゴニアから追放処分となること、なお、「話し合い」では、その話の詳細は明かされず、とにかく騎士団の承認を得るため適当にそれっぽい話がでっち上げられることについて話した。
その話が終わると、
「なっ、なにぃ!!!」
ニコラスは怒りの声を上げ、立ち上がった。今の話、突っ込みどころが満載だったと思うが、にもかかわらず、ニコラスは簡単に信じ込んでしまったようだ。彼は根が(非常に)単純にできているのだろう。
わたしは内心の高笑いをポーカーフェースに包み、立ち上がって「まあまあまあ」とニコラスをなだめつつ、
「大きな声を出さないで。みんなビックリするわ。でも、有り体に言えば、わたしも大迷惑なのよ。いきなりドラゴニア侯領を買い戻せと言われても困るの。だからね……」




