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末席の騎士

 宴会場の正面の席には、わたしとアンジェラ(及びプチドラ)が残された。わたしはアンジェラと顔を見合わせ、

「どうしたのかしら。ホストが主賓を残してどこかへ行っちゃうなんて……」

「分からないけど……、そんなことよりも! ワインが、ワインがぁ~!!」

 プチドラは、涙声で言った。よほどドラゴニア産ワインに思い入れがあったのだろう。

 わたしは、内心、「これだから酒飲みは……」と苦笑しつつ、プチドラを適当になだめ、

「まあまあ、そのうち予算と時間が余れば、ウェルシーでも美味しいワインができるか研究してみるから……」


 しばらくすると、クラゲの足状の騎士団席の末席で、若いひとりの騎士がすっくと立ち上がり、少しだけ赤い顔をして、正面の席まで大股で歩いてきた。見覚えのある顔のような気もするが……、誰だっけ?

 その若い騎士は、わたしの前で恭しく片膝をつき、

「初対面の際は、失礼いたしました。私は、騎士団長ロバート・バーナード・ジョン・アースの嫡子にして、現在、騎士見習いを終え、ドラゴニア騎士団に加えられたばかりのニコラス・ロバート・バーナード・アースです」

「あら、そう、御苦労様……」

 と、わたしはその若い騎士の顔を見つめた。言われてみれば、ドラゴニアン・ハート城に降り立った時、最初に絡んできたのは、この人。よく見ると、端正な顔立ちで、わたし好みのやや童顔・美形キャラタイプ。この若い騎士相手なら、少しばかり世間話も悪くない。

「さっき、騎士団長とドラゴニア侯が連れ立って出て行ったけど、どこに行ったか分かる?」

「まったくの想像ですが、ヤツらが、いえ、失礼、マーチャント商会の使者が来たのだと思います」

 ニコラスは、かなり憤慨した様子で言った。話によれば、しばらく前からマーチャント商会が、「たかだか商人の分際で」、大きな顔をしてドラゴニア領内をのさばっているので、我慢ならないという。のみならず、マーチャント商会の使者が「何よりも最優先」の対応で賓客扱いされていることも、許せないとか。

「父から伝え聞くところによれば、ウェルシー伯は、今回、過去の遺恨を水に流し、ドラゴニアの再生に御協力いただけるということですが……」

「まだ決まったわけじゃないけどね」

 と、わたしは、苦笑いとも愛想笑いともつかないが、とりあえず「笑い」。このニコラスという男、美形キャラタイプにしては、あまり利口そうな感じがしないけれど、どの辺りまで話が伝わっているのだろうか。


 その時、ニコラスは突如として、

「ウェルシー伯ともあろう御方が、なんという……」

 と、声を押し殺すようにして泣き始めた。わたしは、思わず、目が点(なお、目が点なのは、アンジェラも同様)。一体、どうなってるんだか……

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