スヴォールをお風呂に
「お風呂!? ……ですか???」
わたしは、ギョッとした顔でツンドラ侯を見上げた。
すると、ツンドラ侯も少し驚いた顔をして、
「そうだよ。風呂といったら、アレだよ、プールみたいな入れ物にお湯が入って……」
お風呂が何かくらいは常識の範疇だけど、わたしが言いたいのはそういう問題ではなくて、有り体に言えば、スヴォールのように汚くてくさいのが屋敷のお風呂に入ったら、その後、お風呂が使えなくなるということ。ちなみに、器物損壊罪にいう「損壊」には、判例によれば、物理的破壊のみならず、心理的に使用できなくすることも含まれているとのことだが……
ツンドラ侯は腰をかがめ、懇願するような調子になって、
「まあ、ここは、この俺様に免じて、頼むよ。ウェルシー伯には分からんかもしれんが、男のロマンというやつも、世の中にはあるんだから」
わたしは思わずうなだれて、「ふぅ」とひと息。ツンドラ侯の精神構造はまったく分からないが、仕方がないので……、つまり、拒絶した場合はツンドラ侯が怒って大暴れして屋敷を物理的に損壊する危険があるので、パターソンを招き寄せ、「ツンドラ侯に言われたとおりにするように」と伝えた。パターソンも、わたしと同様に「ふぅ」とため息をつき、数名の駐在武官(親衛隊)とともに、鼻をつまみながらスヴォールを持ち上げ、お風呂場まで運んだ。
ちなみに、この時、ニューバーグ男爵は、わたしに向かって何度も「申し訳ない」と頭を下げていた。
こうして、汚くてくさい……言うなれば「汚物」の一応の処理が済んだところで、
「さて、え~と、今日は、なんだっけ」
ツンドラ侯は、唐突に言った。「なんだっけ」と言ってる場合ではないだろうに……
ただ、その時、わたしの思うところを代弁してくれたのが、いかなる意味においても常識人のニューバーグ男爵で、
「侯爵様! ウェルシー伯のお屋敷を来訪したのは、そもそも侯爵様の宮殿での不始末が原因なのですぞ。少しは、当事者意識を持っていただかないと!!」
「そうか、そうだったな…… うん、分かった。でも、ニューバーグよ、そうカリカリするなよ。気ばかり急いてたって、何もいいことはないぜ」
本当にツンドラ侯が「分かった」かどうかは不明だけど……、ただ、いくらツンドラ侯でも、ついさっきグローリアスを殴り殺したことを忘れるほどハチャメチャな脳細胞ではないだろう。いや……、「ないだろう」と信じたい。
しばらくして……
「ウキキキキィーーー!!!」
今日は何回聞かされたことか…… スヴォールの叫び声が屋敷内に響いた。




