いやな予感
わたし(及びプチドラ)とツンドラ侯とニューバーグ男爵を乗せた(更に言えば、死体を積んだ)馬車は、雰囲気的に似つかわしくないキラキラした満天の星空の下、わたしの屋敷への道を、速い速度で進んだ。
うまい具合に途中ですれ違う人も馬車もなく、馬車がわたしの屋敷の前に到達したところ、ニューバーグ男爵が心細げな目でわたしを見つめ、
「とりあえず、今のところは、どうにか…… しかし、ウェルシー伯、これから先、どうされるのでしょうか。こうして、遺体を運んできたのはいいのですが……」
「当てがあるわけじゃないけど…… 多分、なんとか……」
でも、わたしは思わず、「ふぅ~」とため息。「どうされる」と聞かれても、そもそも最初から考えがあってのことではない。一応、可能性としては、事を穏便に収めるためには、屋敷の地下のダーク・エルフたちのうち蘇生魔法の使い手がいれば(なお、プチドラ(=隻眼の黒龍)に蘇生魔法が使えるとは考えにくい)、もしかしたらということもあるが、それほど期待はできない気がする。であれば、できるだけ完全に証拠を隠滅して、みんなで口裏を合わせてとなるが……
「とにかく、屋敷の中に入りましょう。ここでいても、何もできないわ」
その時、屋敷の門がゆっくりと開いた(多分、御者と門番の間で「おたくの御主人がうちの主君の馬車でお帰りだ」、「わかった」みたいに、事務的なやりとりがあったのだろう)。
ところが……
ウキキッ!
不意に、耳障りな人のものとは思えない声(叫び)が耳に飛び込んできた。
ツンドラ侯は、(侯爵の体型からすれば)狭い馬車の中で中腰になって、窓に顔を近づけ、
「なんだ? 動物か、それともモンスターか?」
「さあ、なんでしょうね。気のせいでは?」
と、わたしは適当にその場を繕いながら、内心、「なんてこった」みたいな……
ちなみに、プチドラも大きな口を開け、「あらららら」みたいな表情で、わたしを見上げている。
この声(あるいは叫び)の主は、小さくて汚くて臭いスヴォールとみて間違いないだろう。どこかで近くに、その小さな身を隠しているに違いない。この面倒なときに、どうして、こんな面倒なヤツが現れるのか。
でも、ここでぐずぐずしていても仕方がない。わたしはツンドラ侯に、馬車を屋敷の敷地内に乗り入れるよう促した。常識では測ることのできないスヴォールのことだから、馬車の屋根か床下にへばりついて屋敷に侵入することは十分に考えられるところだけど、ここは仕方がない。
屋敷の玄関の前では、パターソンが十数人の帝都の駐在武官(親衛隊)とともに、そつなく赤いカーペットを敷いて整列していた。




