毒食わば皿まで
わたしは「ふぅ~」と大きく息を吐き出し、
「しょうがないわね。じゃあ、とりあえずは、この死体をわたしの屋敷に運びましょう。いくらなんでも、死体をほったらかして逃げるわけにはいかないでしょう」
すると、ニューバーグ男爵は、うるうると目を潤ませ、
「おお、ウェルシー伯、力になってくれるのですか!? これは、なんとかたじけない。まさに地獄に仏です」
ところが、他方のツンドラ侯は、「よしっ!」と拳を握りしめ、
「そうか、ということは、今日はウェルシー伯の屋敷というわけだ。であれば、丁度いい。隻眼の黒龍と久しぶりの勝負だ!」
これには、わたしのみならず、ニューバーグ男爵はもとより、パーシュ=カーニス評議員も、マンガ的に目が点。ツンドラ侯の精神構造も、本当にまったく意味不明……
でも、とにかく今は、無駄に費やす時間はない。宮殿方面のガヤガヤは、先ほどより少し音が大きくなっているような気配。まごまごしていたら、誰かに発見されるのは時間の問題だろう。
わたしは、パーシュ=カーニス評議員を見上げ、
「評議員は、この場にできるだけ人を近づけないようにして、もし、宮殿方面から誰か人が来たら、適当にごまかしておいてください」
「ええ、それは当然です。任せてください」
「学識豊かな評議員のことだから説明するまでもないと思いますが、今日のこの不祥事がもし明るみに出たら、あるいは、帝国宰相の知るところとなったら……」
「分かっています。魔法アカデミーにとっても、始まって以来の不祥事ですからな。『あの小さい人は、大地の精霊の怒りに触れて地中深くに引きずり込まれた』と言っておきます。なあに、大丈夫。証拠がなければ、なんとでも言えますよ。こんな場合、とりあえずは隠蔽ですよね」
パーシュ=カーニス評議員は、ホッとしたような顔でニッコリと笑った。
そして……
わたし(及びプチドラ)とツンドラ侯とニューバーグ男爵は、ツンドラ侯の馬車に乗り、わたしの屋敷への途を急いでいた。グローリアスの死体は、馬車に積まれていた大きな袋に無造作(かつ無理矢理)に詰め込まれ、床に転がされている。
ツンドラ侯は、こんな時でも、自分の馬車に(死体であっても)グローリアスがいるのが気に入らないらしく、
「なんで、こんなクソチビが、この俺様の馬車に……」
と、ブツブツと文句を言うことしきり。でも、窓からポイと死体を投げ捨てるわけにもいかないだろう。発見されて騒ぎになると、困るのはわたしたちだから。
プチドラは「う~ん」と難しい顔をして、わたしを見上げ、
「マスター、行きがかり上だと思うけど、さすがに今日のはまずいかも……」
「分かっているわ。でも、ここまきたら、乗りかかった船か、毒食わば皿までよ」
わたしは「ふぅ~」と大きなため息をついた。




