ツンドラ侯登場
そのまましばらく(十数秒だろう)、中庭で何をするともなく立っていると、
「うおおぉぉぉ! どけぇ、ニューバーグ!! 今日こそ決着をつけるんだ!!!」
「いけません! おやめください!! そんなことしたら……」
「ハッハッハッハッハッ! ハッハッハッハッハッ!」
と、先ほどより大きく明瞭な声が、中庭に響いた。
プチドラは「ふぅ」と小さくため息をつき、わたしを見上げた。プチドラにも分かっているのだろう、この声の主は、ツンドラ侯とニューバーグ男爵とパーシュ=カーニス評議員に違いない(彼ら以外では有り得ない)。
他方、グローリアスは、余程狼狽が激しいのか「あばばばば」と口をパクパクさせて、
「これは、一体!? あの声は、ツンドラ侯なのか、もしそうなら……」
などと、意味が不明瞭なことを曰っている。
そして、程なくして……
2メートル30センチを超える巨体がズンズンズンと(なお、実際には音は出ていない。誇張した表現として)地面を踏みしめるようにして現れ、
「クソチビめ! 今日こそ許さん、引導を渡してやる!!」
と、髪を逆立たせ、雷鳴が轟くような声を上げた。もはや言うまでもないだろうが、現れたのは、ツンドラ侯。また、ツンドラ侯の背後からは、あらゆる意味において常識人のニューバーグ男爵がツンドラ侯の腰にしがみつき、前に進ませまいと、涙ぐましいまでに無駄な努力をしている。さらに、その傍らでは、「ハッハッハッハッハ」と、どういうわけかパーシュ=カーニス評議員がすがすがしく朗らかな笑い声を上げていた。
ツンドラ侯は、ニューバーグ男爵を引きずるようにしながら、拳を振り上げて、グローリアスに一歩、また一歩と近づき、
「このクソチビめ! てめぇがこの世にいるだけでも末代までの恥だというのに、あまつさえ、ウェルシー伯を手込めにするだって!? 笑わせるんじゃないぞ!!!」
「ひっ! ひっ!! ひいぃぃぃーーー!!!」
グローリアスは、こういう場合によくある比喩表現、ムンクの叫びのような顔になって、鳥のような悲鳴を上げた。
ただ、ここで妙な……、腑に落ちないことといえば、ツンドラ侯の言葉遣いや用語の選択が意味不明(「末代までの恥」みたいな)なのはいつものこととして、わたしが「手込めに」されるって、一体、どういう意味だろうか。
「ハッハッハッハッハッ、ウェルシー伯、何やらわけが分からないといった顔をされていますね。お望みならば、この私が説明いたしますが、いかがですか?」
と、不意にわたしの背後から耳元にささやきかけたのは、パーシュ=カーニス評議員だった。
なお、評議員は、わたしが回答するより前に、
「実は、先ほど、ウェルシー伯があの小さい人と晩餐会会場から出られた後にですね……」
と、頼まれもしないのに、既に説明を始めていた。




