満天の星空の下
グローリアスは腕を組み、「ふむふむ」と何を一人で納得しているのか、頭を上下に何度か動かしていたが、やがて、
「なるほど、考えれば考えるほど、パーシュ=カーニス評議員の御意見が正しいと思えてきましたぞ。晩餐会会場にいるより、中庭に出る方が安全であることですな」
「そうでしょう、そうでしょうとも!」
パーシュ=カーニス評議員は、嬉々として言った。ハッキリ言って、怪しすぎ……、しかし、評議員は、疑念に満ちたわたしの視線など構うことなく、
「では、昔から言いますように、『善は急げ』ですな。早速、『愛の逃避行』と……、いえ、失礼、これは、戯れとして理解していただきたい。でも、とにかく、今すぐに!」
と、両手を使ってわたしとグローリアスの背中を押した。
でも、いきなり「愛の逃避行」って……、「語るに落ちる」のではなく、これは、スケベ根性丸出しではないか。ちなみに、プチドラはハテと首をかしげ、わたしの顔を見上げている。ドラゴンには、こういう人情の機微に触れる話は理解しづらいのだろう。
他方、グローリアスは、現実に背中を押されたことが決め手となったかどうか知らないが、
「では、ウェルシー伯、パーシュ=カーニス評議員も言われているし、差し支えなければですが、少々、よろしいですかな」
と、わたしを見上げ、下心など微塵もなさそうな顔でニッコリ。そんな顔されても、ぶっちゃけ、キモいだけなのだが……
そんなわけで、結局……
ここに到達するまでの経路等々はどうでもいいが、とにかく、ここは、宮殿の中庭。
「ウェルシー伯、今夜は星空が美しいですな」
と、グローリアスは、自分の背中を腰の辺りからグイと反り返らせ、空を見上げた。
話しかけられると黙っているわけにいかないので、わたしからは、
「そうですね。ただ、満天の星々は無粋な輩の跋扈を許さないでしょう」
と、まるで気のない(もっと言えば、嫌悪感に充ち満ちた)返事。
ところが、グローリアスは、何を思ったか(もしかして感心したのか?)、「ほぉ」とか「なるほど」とか独り言をしつつ、「ふむふむ」と何度も頭を上下に動かし、
「いやはや、さすがウェルシー伯、帝国宰相に頼りにされているだけあって、言われることには、含蓄に満ちた深遠なものがありますな」
「そんなもんですか…… はぁ……」
わたしとしては、無理矢理に愛想笑いを浮かべつつ、ため息をつく以外なかった。
グローリアスは、しばらくの間、背中を反り返らせたまま星空を眺めていたが、やがて、
「聞くところによれば、私が生まれたのも、私の兄弟が生まれたのも、このように星のきれいな夜だったとのこと……」
と、いきなり「秘密の暴露」的な展開。ただ、これは唐突どころか、不自然極まりない流れではないか。わたし的には、どうでもいいことだけど……




