気の狂った宴の後
そして……
ゲテモン屋での気の狂った宴は、夜遅くまで続いた。
アース騎士団長の言う「『うまい』とか『まずい』とか言う以前の」、なんとも形容しようのない(命の危険さえ考えるべき)料理が次々と運ばれ、
「うまい! さすがオヤジ、おまえはやっぱり天才だ!!」
ツンドラ侯は満足げに、料理を次々と自分の口に放り込んでいく。のみならず、
「ウェルシー伯も、どうだ? 最高だぞ!! そこだ、一気に飲み込むんだ!!!」
と、そんな悪夢のような光景が繰り広げられ……
うっ…… ぐぇ~……
その後、ツンドラ侯の馬車に送られて屋敷に戻ったわたしは、寝室で、なんとも言いようのない吐き気、寒気、頭痛、目まい、胸の動悸等々に責めさいなめられていた。ちなみに、「ぐぇー」はプチドラも同じらしく、金貨の詰まった袋から出ている頭は、干からびた生け花のごとく、生気なく下を向いて垂れ下がっている。
「マスター……、今日も……、ひどかったね……」
プチドラは言った。今日のゲテモン屋では、最近のドラゴニアの食卓に出されるもののうち、特に危険なものを選りすぐっていたようだ。理屈を言えば、こういうものを日常的に食しているドラゴニアの庶民の健康状態が危ぶまれるということになるが……
ともあれ、ベッドの上で地獄の責め苦を味わうように「あ~」とか「う~」とか声を上げていると、やがて、入り口のドアがスッと開き、
「こんばんは~、今回も突然ですが、元気ですか~」
顔を出したのは、独特のとがった耳、銀色の髪、透き通るような白い肌が特徴のダーク・エルフ、クラウディアだった。御都合主義にも、こういう場合は、素直に感謝しよう。
クラウディアはベッドの傍らから、わたしの顔をのぞき込むと、
「う~ん、あまり元気ではなさそう……と言うか、今にも逝ってしまいそうですね」
「どれどれ? ああ、こりゃ、ひどい。顔色が土気色……、あえて言えば、ゾンビ色かな。でも、それはそれとして、一体、どうしたのかね?」
と、ダーク・エルフのリーダー、ガイウスも、同様にわたしを見つめた。
わたしは最後の気力を振り絞り、どうにか身を起こすと、
「とにかく……、ひどくて……、ほかに言い様がないわ。要するに、食あたり……、オエップ!」
すると、ガイウスはプチドラにもチラリと目をやり、このパターンも何度目かということもあり、おおよそ察しがついたのだろう、
「隻眼の黒龍もここまでグロッキーとは、余程悪いものを食したのだろう。ということなら、今回も、我々エルフの秘伝の薬の出番ということだね」
「そういうことなら、地下室に戻って取ってきましょう。カトリーナさん、もう少しの辛抱ですよ」
クラウディアは足音を立てることなく寝室を出た。




