ゲテモン屋への道
ツンドラ侯は、わたしの姿を目に留めると、
「うおおおおぉぉぉーーー!!!」
と、いわゆるラスボスが降臨したかのような大音声を上げ、わたし(及びプチドラ)のところに猛ダッシュした。のみならず、恐ろしいことに……
「今日はついてる! 晩餐会なんかクソ食らえだ!! そうだ、ゲテモンだ!!!」
その瞬間、わたし(及びプチドラ)の顔は、比喩的に言えば、北斗神拳をくらったかのように、グニャッと激しく歪んだ。
そして……
十数分後……
わたしはプチドラを膝の上に乗せ、ツンドラ侯の馬車の中で揺られていた。処刑場に護送される罪人の心境とは、こういうものだろうか。
ツンドラ侯は、フンフンと鼻息も荒く、
「いやあ、ウェルシー伯に会えるとは思わなかったぜ。しかし、今までウェルシー伯も晩餐会には来てたんだろう。帝国宰相が、それっぽいこと、言ってたぞ。それにしては見かけなかったが……、まあ、いいか」
ちなみに、ツンドラ侯がこれまでわたしの姿を見かけなかったのは、今日のこのような災厄を避けるため、わたしから、言わば自衛措置として、ツンドラ侯を避けていたため。でも、今は、そんな突っ込みを入れる気力もない。
「とにかく、今日は、この世界の果てまで突き進むつもりで、いくぞぉ!」
ツンドラ侯は馬車の中で力強く拳を突き上げ、その瞬間、馬車は大きくグラッと揺れた。体格的に超ウルトラスーパーヘビー級なのを忘れないでほしい(この期に及んでは、どうでもいいことだけど)。
ちなみに、いかなる意味においても常識人のニューバーグ男爵は、わたしの方を向いて、「すみません、すみません」というように、何度も繰り返し頭を下げている。そんなことされても、今のわたしやプチドラにとっては、気休めにもならないが……
わたし(及びプチドラ)、ツンドラ侯、ニューバーグ男爵を乗せた馬車は(宮殿を出た後)、帝都の一等地をゆっくりとしたスピードで進んでいった。行き先がツンドラ侯御用達のゲテモン屋なのは、今更言うまでもないだろう。
そして、馬車が、帝都の一頭地を抜ける辺りまで来た時、
「それにしても、あのクソチビ、重ね重ねの無礼の数々は、断じて許されない」
と、ツンドラ侯が少々唐突に口を開いた。「クソチビ」とは、パーシュ=カーニス評議員の話なども勘案して考えれば、あのローレンス・ダン・ランドル・グローリアス意外には考えられない。
「いえ、ですから、それは……」
「いや、違う。ニューバーグ、おまえは黙ってろ!」
ニューバーグ男爵が何か言いかけたものの、ツンドラ侯に「黙ってろ」と言われた以上、沈黙する以外になかった。




