問題点は先送り
わたしはマーチャント商会会長を見上げ、内心、少し苦し紛れの感があるが、
「わたしとしては、金額で折り合いが付けば……」
「ほう、ならば、基本的に契約は成立で、残る問題は代金の額と考えていいのかね」
会長は、畳みかけるように言った。
「いえ、そこは、結構、微妙な……」
そう言いながら、わたしは、心の声としては「あ~、う~」と……
ただ、ここで、起死回生の妙手ではないが、わたしは、窮すれば通ず(そこまで大層なものではないか)、要は、先延ばしの口実を思いつき、
「実は、わたしも御社に重武装人造人型兵器を買ってもらえるなら、この上ない喜びだけど、今は、ちょっと……というのは、すぐにお売りできない事情があって……」
「ほう、その事情とは?」
「重武装人造人型兵器の思考回路に問題があって、現在、その問題点を解決するために改修作業を実施中で、実は、思考制御をより完璧にするための、いわゆる『良心回路』を更に高度化して、先日のような不慮の事故みたいなことが起こらないように……」
マーチャント商会会長は、今のわたしの話で意味が通じたかどうかは微妙だけど、「ふむふむ」と何度かうなずき、
「要は、完成まで、もう少し時間がかかるという意味かね。それなら、理解はできる。『良心回路』とやらが完成した時には、当社に連絡を入れてもらいたい。ただ、この前のような大立ち回りは、御遠慮願おう」
「分かったわ。重武装人造人型兵器が完成したら、必ず……」
すると、マーチャント商会会長は、その答えを引き出して満足したのか、「これにて失礼」と、足早にわたしの目の前から立ち去るのだった。
こうして、宮殿の長い廊下には、わたしがただ一人(厳密には、プチドラも含み)残された。とりあえずは面倒な相手がいなくなって、わたしはホッとひと息。
プチドラは、「なんだかな~」という顔をして、わたしを見上げ、
「マスター、マーチャント商会会長に対して、ああいう対応でよかったの?」
「最高によかったとは言えないけど、最悪の対応でもないでしょう。今すぐプロトタイプ1号機を売るのは、アンジェラも気に入ってるようだし、ちょっとね……」
すると、プチドラは、「やれやれ」というように、「ふぅ~」と大きく息を吐き出した。
ネーミングセンスは別にして、とりあえず思いつきの『良心回路』が完成するまでという名目で、多少の時間を稼げたのだからよしとしよう。ただ、言い方を変えれば、単に先送りにしただけとも言えるが、それはそれとして……
と、その時、
「うぉーーー!!!」
突如、宮殿の長い廊下に、猛獣ともモンスターともつかない(つまり、人とは思えない)大声が響いた。




