交渉は続く
わたしは、「そうね、え~と……」などと言いながら、考えること十数秒。そもそも、プロトタイプ1号機とは、マーチャント商会との戦争に備えて、あの小さくて汚くて臭いスヴォールに開発を依頼したものだから、今現在、差し当たってマーチャント商会との戦争が考えられない状況においては、無理して手元に置いておく必要はない。加えて、今は、スヴォールから成功報酬や追加費用等々の名目で「金を払え」と請求を受けているところだから、プロトタイプ1号機とともに、スヴォールに対する契約上の地位をそのままマーチャント商会会長に譲り渡し、その契約関係から離脱することができるなら、後々の面倒がなくなって、ある意味、一石二鳥かもしれない。
とはいえ、アンジェラはプロトタイプ1号機を気に入って、友達のように仲良く遊んでいる。アンジェラの意向を無視してプロトタイプ1号機を売り渡すわけには……
「どうしたのかね? 弊社としては、当然、正当な額の対価、代金は支払う用意がある。先日、弊社を訪れたのは、そのプロトタイプ1号機のデモンストレーションの意味だったのではないのかね?」
マーチャント商会会長は、極めて事務的な口調で言った。
わたしは、おもむろに(特に意味はなく)大きく息を吐き出し、
「取引自体は前向きに検討するけど、一つ、いいかしら?」
「『一つ』とは何かね? 質問なら、回答できるものに限ってだが、受け付けるがね」
「いや、なんというか……」
わたしはここで、ひと呼吸置き(「いいかしら?」と言いながら、その後に何を言うか、よく考えていなかったりする)、
「つまり、プロトタイプ1号機……正式名称としては重武装人造人型兵器と呼んでるけど、その重武装人造人型兵器を、マーチャント商会はどのように利用するつもりかしら?」
すると、マーチャント商会会長は、珍しいこともあるもので、その瞬間、ニヤリと口元を動かし、
「どのようにだって? 利用法と言えば、一つしかないのではないか。まあ、もう少し説明的に言うと、前に見た完全自動殺人機械……そちらでは、重武装人造人型兵器と呼ぶようだが、その兵器の生産設備や技術等も含めての購入は、我が社が軍事的ミッションを効果的に遂行するための投資に当たり、長期的に見て我が社に利益をもたらすと考えている。ほかに言いようはあるまい」
「そうよね、ほかに言いようは……」
「ウェルシー伯、もし、我が社が、その重武装人造人型兵器をもって、貴国に対して戦争を仕掛けるといったことを懸念しているとすれば、それは完全な杞憂だということは、明言しておきたい」
「分かってるわ。あなたたちは、本質的に商人なんでしょう」
「そのとおり。だが、ウェルシー伯も商売の話は大好きなのだろう。今は、その大好きな話をしているわけだが……」
マーチャント商会会長は、まったく感情のこもらない目でわたしを見つめている。




