今度はメカニックな
パーシュ=カーニス評議員は(ひととおり話したいことを話し終えたのだろう)、「ハッハッハッハッハッ」と、気持ちよさそうに笑い、
「つまり、ウェルシー伯、そういうわけなのです。あのグローリアス氏、結構怪しいらしいのですが、それはさておき……、どこに行ったのかな?」
と、遠くを見渡すように、額に手のひらを水平に当てた。ところが、グローリアスの身長の問題もあって、すぐに発見できなかったらしく、評議員はチッと舌打ちして、
「まあ、いいや。どこかで騒ぎが持ち上がれば、『わー』とか『きゃー』とか、声が上がるだろう。というわけで、私はしばらく、適当に宴会場をぶらついています。では、また」
そして、パーシュ=カーニス評議員は、例によって、「ハッハッハッ」と笑い声を残し、まるで爽やかな春風のように去っていった。
プチドラは、わたしの腕の中でハテと首をかしげ、
「あの人もいつものことだけど、一体、なんなんだろうね」
「さあ、なんなのかしら。あの人はあの人で、何か思うところでもあるんでしょう。でも、そんな本人にしか分からないこと、いちいち気にしてても、仕方がないわ」
ちなみに、宴会場の中央からは、例によって、
「くそっ! 誰か、この俺様に挑戦する者は!? 根性のあるヤツ、名乗り出ろ!!!」
と、ツンドラ侯の叫びとも怒号ともつかない大声が響いてくる。改めて聞いてみると、パーシュ=カーニス評議員の話のせいでそう思えるのかもしれないが、ツンドラ侯には結構フラストレーションがたまってそうな感じもしないではない。
ということは、すなわち……
「マスター、もうそろそろ、頃合いじゃない?」
プチドラがブルッと身震いして、わたしを見上げた。わたしも無言でうなずく。もし、フラストレーションが爆発寸前のツンドラ侯に捕まったりしたら、理屈や論理はさておき、ゲテモン屋で恐怖のフルコース(場合によっては恐怖度3倍増しみたいな)に突き合わされ、無理矢理かつ無意味に命をかけさせられることになるだろう。なお、宴会場には、立ち飲み形式でアルコール飲料が用意されているが、さすがの「アルコール大王」も、今日のところは飲もうという気にならないようだ。それだけ、ゲテモンの恐怖が物を言っているということだけど……
「帰りましょう…… いえ、退散と言ったほうがいいかしら」
わたしは(プチドラを抱きつつ)、ツンドラ侯の目に入らないように細心の注意を払いながら、人陰に隠れ、晩餐会場に入った時とは反対方向に向かって、会場の壁に沿って移動した。そして、係員のいる宴会場の入り口付近までたどりつき、
「とりあえず、ここまで来れば、ひと安心かしら」
と、ホッとひと息。
ところが……
「これはこれは、ウェルシー伯、こんなところで、奇遇ですな」
背後から、最近も聞いたような、どことなくメカニックな声が響いた。




