サッカーボールみたいに
パーシュ=カーニス評議員は、本当に楽しくて仕方がないといった顔で、
「どうです? 面白いと思いませんか? ちっちゃいグローリアス氏が、大きいだけが取り柄みたいなツンドラ侯と対決するんですよ。ちっちゃい方は、サッカーボールみたいに蹴っ飛ばされて、ボロボロにされるんじゃないでしょうかね」
「はい???」
と、わたしは、もう一度、(マンガ的慣用表現として)目が点。面白いかもしれないが、面白いとしても、面白がっている場合ではないのではないか?
なお、ここで疑問が一つ。グローリアスとツンドラ侯の間が非常に険悪になっているということだけど、その原因はなんだろう。考えられることとしては、例えば、前のドラゴニア戦役において、諸侯有志連合軍の総大将を誰にするかで、グローリアスとツンドラ侯の間で悶着でもあったことくらいだろうか(結局、グローリアスが総大将の地位に就いたという話だったはずだが……)。
その点について、パーシュ=カーニス評議員曰く。
「さすがウェルシー伯爵、鋭い洞察力ですね。要するに、ツンドラ侯は、政治的判断によってグローリアス氏が諸侯有志連合軍の総大将に選ばれたことが、許せないらしいのです」
「許せないって…… そういうものなのですか?」
「聞くところによれば、ドラゴニアに出発する前、『俺様は無敵のエドワード、戦場では誰の指示も指図も受けない』と、帝国宰相にねじ込んだとのことです。それで、帝国宰相は、仕方がないので、ツンドラ侯に先鋒軍司令官の地位と、ドラゴニアにおいて相手が抵抗してきた場合に限ってのフリーハンドを与えたらしいですな」
「そうですか、なるほど……」
「しかし、ツンドラ侯の怒りは治まるどころか、ますます燃えさかり、晩餐会では、グローリアス氏をボコボコにするチャンスを虎視眈々と狙っているようです。どうです? 面白いでしょう。私が今日、晩餐会に出てきたのは、もうそろそろツンドラ侯の怒りが爆発する頃かなと思ったからなのですよ」
そして、パーシュ=カーニス評議員は、ひと際高い声で「ハッハッハッハッハッ」と笑った。
わたしは、プチドラと顔を見合わせた。表情を記号的に表せば、「???」となるだろうか。グローリアスとツンドラ侯の件は、一応、話としては、そうなのだろうが、なんだか、分かったような分からないような……
ちなみに、宴会場の中央からは、今現在、
「俺様は無敵のエドワード! 最強だ!! かかってこい!!!」
と、ツンドラ侯の大声が響いている。
よく見ると、小柄な人が一人、ツンドラ侯の背後から彼の腰の辺りにしがみついていた。ほぼ100%、ニューバーグ男爵だろう。いつもながら、御苦労なことだ。




