連帯保証
スヤスヤスヤ…… スヤスヤスヤ……
なんだかよく分からないけど、いい気分。そのボンヤリとした意識の中、
「マスター、読み終わったよ。起きてよ。」
「……」
「マスター、マスターってば!」
「お姉様、ねえ、お姉様、起きてください!」
わたしは体を強く揺り動かされ、
「あっ、あらっ? 何?? 一体、どうしたの???」
「マスター、しっかりしてよ。たった今、その冊子を読み終わったところだよ」
顔を上げると、プチドラは少々ふくれっ面をして、騎士団長から受け取った分厚い冊子を頭の上に持ち上げていた。プチドラ(及び、どの程度内容を理解できたかは別にして、アンジェラ)が冊子の内容を吟味している間、不覚にも眠りに落ちていたようだ。
でも、それはそれとして、
「で、どうだった? 何か面白いと言うか、恐ろしいと言うか…… どんなことが書いてあったの??」
「ひと言で言えば、恐ろしいと言えるかな。アース騎士団長が漏らしていたとおり、『契約書』なんだけど……」
プチドラが分かりやすくまとめてくれたところによれば、分厚い冊子はドラゴニア候のマーチャント商会に対する債務の「更改契約書」であり、具体的には、①マーチャント商会は、現在有しているドラゴニア侯への債権の元本、利息及び債権確保のために設定された抵当権を放棄すること、②ドラゴニア侯は、マーチャント商会に対し、それまでの利息を元本に含めた新たな債務を負担すること、③その新たな債務の返済を確実にするため、ウェルシー伯は、マーチャント商会に対し、ドラゴニア侯と同様の債務をドラゴニア侯と連帯して負担することの3点が基本とのこと。
また、債務の履行期日やら、返済が滞った場合の遅延利息やら、争いになった場合の裁判の管轄やら、いろいろと細々としたことがものすごくたくさん書かれており、そのために結果として電話帳のような膨大な分量になったようだという。
「そうなの…… でも、なんというか、あまり驚きはしないわ」
「御曹司は、『話し合いの締め括りには、満場一致の拍手を送る』と言ってたけど、それは、多分、『異議なし、賛成』を意味するんだろうね」
「つまり、御曹司としては、わたしをうまくだまくらかして債務を押しつけたいと……」
わたしは思わず「ふぅ」とため息をついた。ただ、御曹司の目論見は、法的には、詐欺か、錯誤か、場合によっては公序良俗違反で無効になるのではないか。それだけ追い込まれていたということでもあるが……
その時、コンコンとドアをノックする音が聞こえ、
「ウェルシー伯……と、そのお連れの方、宴会の用意ができましたが…… え~っと……、あっ、あれっ!?」
アース騎士団長が顔を出した。騎士団長は、首を上下左右に行ったり来たり、部屋の中が明るくなっているのに驚いている様子。あまり魔法を目にする機会はないのかもしれない。