得体のしれない力
わたしは応接室のソファに深く座り、しばらく考えた後(と言うより、単に時間をつぶしただけというのが正確な表現だろう)、
「パターソン、この件は、今すぐに結論を出すのではなく、継続協議ということにしましょう。こちらとしても、『払う理由のない金は払わない』のスタンスでね」
「了解いたしました。では、仰せのとおりに……」
パターソンは苦笑しつつ、短い言葉で言った。彼も、わたしの考え(つまり、うまくいけば踏み倒し)には、察しがついているのだろう。
ただ、それはそれとして、疑問点が一つ……
「ところで、パターソン、どうして分かったのかしら? もしかして、あのスヴォールに、わたしの住所や氏名が漏れるようなことがあった?」
すると、パターソンは、首をブルンブルンと横に振り、
「いえ、それはありません。誓って言えます。情報管理は徹底していますから」
と、言葉に力を入れて言った。何事につけてもソツのないパターソンのことだから、彼から情報が漏洩するとは考えにくい。であれば、スヴォールは、一体どこから情報を仕入れたのだろう。
わたしは「うーん」と、ほんの数秒間、腕を組み、そして……
「まあ、いいわ。なんだか分からないけど、相手がスヴォールだからということで、無理矢理自分を納得させることにしましょう」
なんだかよく分からない結論だけど、わたしの周りにいる変人たち(ツンドラ侯、神がかり行者、御曹司、パーシュ=カーニス評議員等々)の基地外ぶりに鑑みれば、スヴォールが何やら得体のしれない力でもってわたしの屋敷を探り当てるということも、絶対に有り得ないと否定することはできないだろう。
その時…… ガチャ……
不意に、応接室のドアの鍵穴付近から金属音が小さく響いた。しかし、ドアは開くでもなく、ドア枠との間に小さな隙間ができただけ。
パターソンは怪訝な顔をして、
「はて、すきま風でも入ってきたのかな。ちょっと、見てきます」
と、ドアのところまで歩いていくと、「あっ!」という顔をして、
「ここにいるのは、アンジェラじゃないですか。でも、どうして?」
「すいません、つい、のぞいてしまいたくなって、あの、その……」
どうやら、アンジェラが応接室の扉の向こうで聞き耳を立てていたらしい。マーチャント商会本社に出かける前も、確か、同じような調子だったっけ。ということは、もしかすると、アンジェラは、重武装人造人型兵器に興味津々ということだろうか。
「何も謝ることはないわ」
わたしはソファから立ち上がり、プロトタイプ1号機を見上げると、
「プロトタイプ1号機、あなたに新たな任務を与えるわ。あなたは、そこにいるアンジェラの玩具になりなさい。どんなことがあっても、アンジェラに逆らってはダメだからね」
すると、プロトタイプ1号機はガチャガチャと音を立て、何度かうなずいた。




