マーチャント商会会長の反応
金箔がコテコテに貼り付けられたキンキラキンの馬車から出てきたのは、まさしく、マーチャント商会会長だった(名前は、確か……、スプラッタハウス?)。
わたしは、急遽、大きな声を出して、
「プロトタイプ1号機、ちょっと、ストップ! フリーズ!! 凍結!!!」
と、プロトタイプ1号機をその場で停止させた。そして、プチドラを抱いて馬車を降り、マーチャント商会会長の前まで(余裕を示すように)ゆっくりと歩く。
会長は、わたしの姿を認めても表情を変えることなく、相変わらずのメカニックな口調で、
「おやおや、これはこれは、ウェルシー伯ではありませんか。御無沙汰しておりますな。このようなところでお会いするとは、わが本社に御用でも、おありですかな?」
と、深々と頭を下げた。
わたしは、とりあえずはニッコリと微笑み、
「ええ、ちょっとした用がありまして…… 本当に、ちょっとしたことなのですが、でも、考えようによっては、非常に重要なことかも」
「ほぉ、いささか唐突な感もありますが、『重要なこと』ですかな。ただ、どのような文脈で用いられているのかという問題もある。我々の業界では、通常、財産的得失を基準とするのですがね」
この人の言うことも、複雑怪奇に婉曲的な表現が結構多い。
わたしは、おもむろに「コホン」と軽く咳ばらいをした後、
「本日は、お日柄もよく……、本当に、いい天気ですね。このような良き日に、わがウェルシーの最新兵器がロールアウトを迎えるということは……」
マーチャント商会会長は、例によってメカニックな表情で「はて」と首をかしげ、
「申し訳ないが、ウェルシー伯、用件があるなら、具体的に願いたいものだが……」
「用件ですか。用件とは、つまり……」
わたしは、そう言いながら、内心、「さて、どうしよう」みたいな…… すなわち、マーチャント商会本社を訪れた理由は、プロトタイプ1号機の性能テストのためであって、会長と商談をしにきたわけではない。
他方、マーチャント商会会長は、ここで初めて、血みどろの殺害現場を見渡し、
「それはそれとして、この惨状は、一体、どういうことですかね?」
わたしは、ここで間髪を入れず、
「これは、単なる正当防衛の結果です。ここにいるプロトタイプ1号機が、わたしに危害を加えようとする賊どもに、正義の鉄槌を食らわしたというわけ。このプロトタイプ1号機は、一体が1万の軍団に匹敵する重武装人造人型兵器、わがウェルシーの切り札なのよ」
「ほぉ、それは……、この鎧武者のようなものが兵器? プロトタイプ1号機と言うのかね??」
マーチャント商会会長は、プロトタイプ1号機をしげしげと見つめた。会長は、なんだか、非常に興味を掻き立てられているようにも見える。常にメカニックで感情をどこかに置き忘れたみたいな会長にしては、珍しいこともあるものだ。




