キンキラキンに輝く本社
馬車はガタゴトと、帝都の一等地を出て、マーチャント商会本社のある商業地域に向かった。馬車のすぐ後を、ガシャン、ガシャンと大きな音を立てて、プロトタイプ1号機が走ってくる。通りには多くの人たちが往来していたが、誰もが驚いた顔をして街路の両脇に退き、道をあけた。事情も何も知らない人にとっては、正体の知れない馬車と、全身を甲冑で覆われた得体の知れない鎧武者が追いかけっこをしているという、常識的には有り得ない光景に出くわしたのだから、これも自然な反応だろう。
しばらく馬車を進めていくと、商業地域の一角に、ひときわ目立つ「金貨の山」が見えた。周囲の建物に比べて抜きん出て背が高い建物の屋上に堂々と、マーチャント商会のシンボルマーク、「金貨の山」の看板が掲げられている。のみならず、建物の外壁にはコテコテに金箔が貼られていて、御曹司に勝るとも劣らないくらいに、見れば見るほどに悪趣味。パターソンもプチドラも、驚いているのか、あるいは呆れているのか、口をあんぐりと開けてものも言わず、キンキラキンに輝くマーチャント商会本社を眺めている。
この際だから、こっそりと外壁を削り取って、失敬してしまおうかしら。そんなことを考えていると……
キィィ! ガクン!! そして…… ドカッ!!!
どういうことかというと、これは、まず、馬車が「キィィ」と急ブレーキをかけて「カクン」と急停止し、次に、馬車のすぐ後ろを走ってきたプロトタイプ1号機が急に止まれずに馬車に「ドカッ」と激突したということ。ついでに言うと、その衝撃でわたしは馬車の中で倒れ込み、イタタタタ……
わたしは、頭を抑えながら身を起こし、
「しっかりしてよ、鞭打ちになっちゃうじゃないの!」
「申し訳ございません。しかし、止むを得ず…… とにかく、馬車の外を御覧下さい!」
御者は、泣きそうな声を上げた。
「なんなのよ。いきなり地獄の火の中なら理解できなくもない……わけないか……」
と、ブツブツと文句を言いながら、馬車の窓からひょいと顔を出してみると、
「ここから先は、関係者以外、立ち入り禁止! 即刻、立ち去られよ!!」
なぜだか、重武装の兵士が、ドスの利いた声ですごんでいた。周囲を見回してみると、驚いたことに、十数名の兵士が馬車を取り囲んで進路をふさぎ、さらに、街路の脇には、兵士の詰め所らしい小屋も設けられている。
パターソンは窓越しに、辺りの状況をうかがいながら、
「マーチャント商会による検問のようです。限られた人以外、本社に近づけないつもりでしょう」
外壁に金箔を張り付けた分、常識的に考えれば、警備も厳重になったということだろうか。金箔を削り取って持って帰るのは、どうやら、無理っぽい。
「とりあえず、彼らと話をしてみます。しばらく、お待ちを」
パターソンは馬車を降りた。でも、プロトタイプ1号機のテストには丁度よさそうな集団だけに、個人的には、交渉決裂を希望。




