プロトタイプ1号機
わたしは、ここで、ふと思い立ち、
「そうね、とりあえず、最初は名前からかしら。名前、名前……と」
すると、プチドラは、どういうわけか、わたしの顔を見上げた。何やら不満げな表情をしている。名前について、何か気に入らないことでもあるのだろうか。どうでもいい話だけど、確か、「プチドラ」の名付け親もわたしだったはず。その時は、どういう理由で付けたのだったろう。今となっては全然思い出せないけど、当時はものすごく簡単に考えたような気がする。もしかすると、何も考えてなかったかも……
でも、プチドラはプチドラだし、プチドラ以外には有り得ないし……、それで十分ではないか。ともあれ、自己弁護か自己正当化か、よく分からない話はこの程度にしよう。
わたしはおもむろに、重武装人造人型兵器のプロトタイプ1号機を見上げ、
「そうね……、あなたは、重武装人造人型兵器のプロトタイプ1号機だから、『プロトタイプ1号機』に決まりよ。いい名前でしょう。感謝しなさい。念のために言うけど、不服申し立ては認めないからね。分かった?」
プロトタイプ1号機はガチャガチャと音を立て、「分かりました」というように、頭を何度か上下させた。プチドラは「やれやれ」という顔をして、大きく息をはき出す。「プロトタイプ1号機」では、安直に過ぎただろうか。でも、本人(プロトタイプ1号機)は満足しているようなので(少なくとも、わたしからは、そう見える)、それでよしとしよう。
わたしはプチドラを抱いてソファから立ち上がり、
「ついてきなさい、プロトタイプ1号機。成り行きによっては、実戦テストよ。分かっていると思うけど、その際、万が一、あなたが使い物にならないと判明した時には、即、スクラップだからね」
すると、プロトタイプ1号機は背筋をビクッと震わせ、続いて、両手を合わせて何やら懇願するようなポーズ。一体、なんなんだか。「スクラップは勘弁してください」という意味だろうか。兵器の分際で、随分と感情豊かなこと……
わたしは「ふぅ~」と、小さくため息をつき、
「あなたには、ものすごくお金がかかったのよ。よっぽどのことがなければスクラップにしないから、安心して……、いえ、安心されても困るんだけど……、とにかく!」
プロトタイプ1号機は両手を合わせたまま、ガチャガチャと音を立て、「うんうん」と頭を何度も上下させた。本当に大丈夫だろうか。
わたしは、なんとも言いようのない非常な不安に駆られながら、応接室のドアを開けた。
すると……、「ひぃ!」という少女の悲鳴のような声がして、
「あっ! すいません、失礼しました。つい、ちょっぴり、のぞいてみたくなって……」
と、こっそりと聞き耳を立てていたのだろう、クレアがドアに弾かれるように後ずさり、驚きの声を上げた。
「いいわよ。気にしないで。わたしはこれからプロトタイプ1号機を連れて出かけるから」
クレアは、ちょっぴり顔を曇らせながら(理由は分からないが)、うなずいた。




