戦闘が終わり
わたし(及びプチドラ)とアンジェラは、ドラゴニアン・ハートの町の中に戻るのではなく、城壁に沿って小走りに、ツンドラ侯及び彼の騎士団からできるだけ距離を取った。
しばらく駆けた後、わたしは後方を振り返り、
「この辺りまで来ればいいかしら」
今いる位置は、うまい具合に、ツンドラ侯(及び彼の騎士団)からは丁度死角になっているらしく、こちらからは彼らの姿は見えず、同様に、ツンドラ侯もわたしたちを見ることはできない。
わたしはプチドラを空に放ち、
「じゃあ、プチドラ、頼むわ」
すると、プチドラは、空中で体を象のように大きく膨らませ、巨大なコウモリの翼を左右に広げた。左目が爛々と輝く。こうして、たちまち、子犬サイズのプチドラから、(こちらこそ本来の姿だけど)隻眼の黒龍モードに。
隻眼の黒龍は、その背中にわたしとアンジェラを(説明的に言えば、アンジェラを前、わたしをその後ろに)乗せると、巨大なコウモリの翼を更に大きく広げ、ゆっくりと大空に舞い上がった。
こうして、何はともあれ……、早い話、ドラゴニアの課題を放置して脱出を図っただけだけど、とにもかくにも、今回のドラゴニアへの小旅行は終わった。
ちなみに、後から聞いた話によると、ドラゴニアン・ハートの町に迫っていたツンドラ侯及び彼の騎士団は、わたしたちがその場から離れた後、ツンドラ侯を先頭に、威風堂々、ドラゴニアン・ハート城に入城したとのこと。
その際には、数名の死傷者を出したものの、入城はおおむね秩序立てて行われ、危惧された大混乱や殺戮・虐殺等は起きなかったらしい。当時の状況を具体的に言うと、ツンドラ侯が先頭になって(その時には既に城門が開け放たれている)ドラゴニアン・ハートの町への突撃を敢行しようと態勢を整えていたところに、アース騎士団長及び数名の騎士(ドラゴニア騎士団の上層部)が、甲冑を脱ぎ下着のみという姿でツンドラ侯の前まで大急ぎで駆け寄ってひざまずき、大声で泣きわめきながら許しを乞うたという。「泣きながら許しを乞う」のは、半分冗談のつもりだったけど、本当に実行していたとは、少しビックリ。
でも、結果的に見ればそれが正解で、ツンドラ侯は、「つい弾みで」(これは、後日、本人の語るところによる)ドラゴニア騎士団の上層部の数人を斬り殺し、アース騎士団長自身にも重傷を負わせてしまったが、それでもドラゴニア騎士団が抵抗しないのを見ているうちに、次第に興奮が収まり、しばらく後、非常に限定されてはいるものの合理的な会話が可能になったとのこと。
そして、ツンドラ侯は、「泣いて謝ってるなら許してやるか」と、ドラゴニア騎士団の降服を受け入れ、その後には粛々と、自らの騎士団を引き連れ、ドラゴニアン・ハート城に入城したという。




