あろうことか
アース騎士団長は、絶叫の後には、気が抜けたように「はぁ~」と大きく嘆息して、
「こんなことになるなら…… とにもかくにも、理由や理屈は抜きでも、ヤツらを始末しておかなければならなかったということか。くそっ!」
「しかし、この期に及んでは、もはや……」
と、先ほど「御注進」に訪れた(それ以降は騎士団長と行動をともにしている)騎士は、震える声で言った。
わたしは、プチドラを抱いてアンジェラの手を引き、アース騎士団長のすぐ後ろに歩み寄ると、
「アース騎士団長、一体、どうされましたか? 何やら、この世のものと思われない……、いえ、とにかく、すごい声で叫んでいらっしゃいましたが……」
すると、騎士団長は、瞬間、ギョッとした顔になって(実際、十数センチ飛び跳ねていただろう)、後方を振り向き、
「えっ!? あっ、ああっ!! これは、ウェルシー伯ではありませんか!!! これはしかし、いや、まずいところにいらっしゃいましたな」
今の騎士団長は、通常の思考能力を失っているのだろう。受け答えが非常におかしい。騎士団長は今まで冷静沈着な人というイメージだったけど、それだけ今が異常事態だということだろう。
ちなみに、そうしている間にも、南東のはるか先に見えている白くてモヤッとしたような物体は(恐らくは諸侯有志連合軍、白馬から成る騎馬隊だろう)、ほんの少しずつではあるが、徐々に映像がクリアになっていて、今や、もう少し近くに来ればその正体が識別可能になろうという状態になっている。
わたしは、ちらりと東の方角に目をやりつつ、
「単刀直入に言いましょう。騎士団長が慌てている原因は、このドラゴニアン・ハートの町に、帝都から派遣されたという諸侯有志連合軍が、すぐ目の前に迫っているからではありませんか?」
すると、騎士団長は、全身でもってその驚きを表現し、
「えっ、ええーーー!? どうして、それを??? いや、しかし、そうですね、確かに、おっしゃるとおり、そのとおりなのですが、とはいえ……」
騎士団長は、非常に要領を得ない話しぶりではあるが、そのストーリーをわたしの頭の中で再構成すれば、状況は、おそらく次のとおり。
今このドラゴニアン・ハートの町に迫っているのは、わたしの予想どおり、帝都から派遣された諸侯有志連合軍のうちの先鋒軍であり、その先鋒軍の司令官は、帝国宰相の手紙で予告されていたように、(「あろうことか」という修飾語も付け加えたい)ツンドラ侯だという。ちなみに、先鋒軍はツンドラ侯の騎士団のみで構成され、しかも、機動力重視という意味があるのか(あるいは、ツンドラ侯の趣味か)白馬のみで編成された騎馬隊であり、その先頭で指揮を執るのは、2メートル30センチを超えそうな巨漢、ツンドラ侯とのこと。




