決闘どころでは?
アース騎士団長は、余程狼狽しているのだろう、口元をわなわなと震わせ、腕を組んだり額に手を当てたりしている。とにかく、尋常の事態ではないといった感じ。
騎士団長は、御注進を告げに来た騎士の甲冑の肩当てをむんずと捕まえ、
「我々からは、手出しはしていなんだろうな! これだけは、間違いないな!!」
「当然です! 御命令どおりです。ただ、相手が相手だけに!!」
「なんと!? くそっ、こんな話の通じない相手とは!!!」
アース騎士団長は、「ああっ!」と額に手をやり、天を仰いだ。
そして、騎士団長は慌ただしく、御注進を告げに来た騎士を連れ、(決闘の場である)町の外れの広場を出ると、ドラゴニアン・ハートの町の城門に向かった。ドラゴニア騎士団の騎士たちは、一体何が起こっているのか分からないというように、互いに顔を見合わせ、首をひねっている。
先程からわたしの肩に乗っかっているプチドラは、アース騎士団長の後ろ姿を見送りながら、
「マスター、一体、なんなんだろう。決闘が始まったばかりなのに……、大事件が起こって、決闘どころではなくなってしまったのかな」
「まあ、そんなところでしょう。ここは、とりあえず、アース騎士団長を追いかけましょう」
と、わたしはアンジェラに目で合図を送った。アンジェラは、戦いを続けるニコラスを横目で見つつ、無言でうなずく。ニコラスのことが多少気にはなるが、いくら平均以下とはいえ、秒殺されるほどのひどい腕前ではないだろう(ただし、これはほとんど希望的観測)。
わたしはプチドラを胸に抱き、アンジェラの手を引いてアース騎士団長を追い、ドラゴニアン・ハートの町の城門にまで急いだ。
そして、城門の向こうでは……
「あああーーーーー……!!!」
アース騎士団長が、何を思ったか、まさにムンクに描かれた橋の上の人さながらの顔になって、絶叫していた。
「なっ、なんということだぁ!!!」
騎士団長が体を向けている方向(具体的に言えば、南東)に目をやってみると、はるか遠くに、全体として白くてモヤッとしたものが小刻みに動いているのが見えた。のみならず、その方向に耳を澄ましてみると、「あぁ」とか「うぁ」とか、群衆の発する喧噪のようなものも……
ちなみに、ドラゴニアン・ハート城の城外では、三匹のぶたさん(アート公、ウェストゲート公、サムストック公)の派遣した騎士団の騎士たちが野営しており、その騎士たちのうち、ドラゴニアン・ハートの町の中に入りきらなかった騎士たちは(むしろ、こちらが多数だが)、「何やら東の様子がおかしい」とばかりに、次々とテントから出て、南東方向に目を凝らしていた。
プチドラは小さな手を額にかざし、
「マスター、あれはもしかして、白い馬の団体さん?、軍勢がこの城に向かっているのかな」
「そうね、なんとなく、そんな感じがするわ。正体は、いささか……、いえ、かなり唐突だけど、帝都からドラゴニアに向かったという諸侯有志連合軍かしら」




