決闘の日
そして、数日が過ぎ……
決闘の場、すなわち、ドラゴニアン・ハートの町外れにある城壁を背にした(城門もほど近い)広場では、
「では、ニコラス・ロバート・バーナード・アース、これより死地に赴きます」
ニコラスは、わたし(及びプチドラ込みで)とアンジェラ、アース騎士団長を前に言った。
「頑張ってね。ドラゴニアの未来は、今日のあなたの戦いに懸かっているのよ」
と、わたしは、適当に当たり障りのない言葉でニコラスを励ます。
ただ、ニコラス本人は引きつった顔で、見た感じ、非常に緊張している様子。行きがかり上、決闘の、すなわち、これから始まる殺し合いの当事者になってしまったのだから、それも当然だろう。
「ニコラスよ、私は、おまえがわが家名に恥じぬ立派な戦いを行うことを、また、後々まで語り継がれる武勇を世に示すことを信じている」
アース騎士団長は、努めて平静を装って言った。しかし、今日の騎士団長の顔は、誰が見ても明らかなほど、苦渋に満ちている。決闘の場には、ドラゴニア騎士団の主だったメンバーもニコラスの応援団のような形で駆けつけているためか、騎士団長は、(息子に対する父親としての)感情を表に出すことは抑制しているようだ。
他方、ニコラスの対戦相手であるルイス・ベン・エドモンド・カート及び彼の仲間の(あるいは応援団的な)騎士たち(三匹のブタさん、つまり、アート公、ウェストゲート公、サムストック公の派遣した騎士団の面々)は、余裕のある、あるいは、露骨にニコラスを見下したような表情で、
「はーっはっはっは! 逃亡しなかっただけ偉いぞ。しかし、利口ではないな」
と、一斉にニコラスをあざ笑い、はやし立てた。これには、闘う前に心理的に優位に立っておこうという彼らの作戦もあるだろう。
これに対し、ニコラスはひと言も発することなく、ただただ剣を握りしめ、鋭い視線をルイス・ベン・エドモンド・カートに注いでいるだけ。しかし、ニコラスの口元や剣を握る手は、ブルブルと小刻みに震えている。これは、武者震いだろうか。あるいは、単にビビって震えているだけとか……
プチドラは、わたしの肩の上にぴょんと飛び乗り、「ふぅ」とため息をつき、
「マスター、この勝負、どう見てもニコラスに勝ち目はないと思うよ」
「そうでしょうね。今のニコラスを見れば、誰でもそう思うでしょ。でも……、いえ、だからかしら、いよいよニコラスが危ないとなれば、プチドラ、超非常手段よ」
「超非常手段って?」
プチドラは、ハテと首をひねった。
「プチドラ、あなたが隻眼の黒龍モードになって、ブタさんの騎士団を一網打尽、全滅させてしまうのよ」
すると、プチドラは「えっ!?」と、大きな口を開けた。無理筋、いや、常識的にあり得ない選択肢であることは、わたしも分かっているが……




