決闘裁判
アース騎士団長は目を閉じ、何やらおもむろに深呼吸すると、
「騎士階級以上で、このように見解が食い違い、確たる証拠によって事実を確認できない場合は、やむを得ない。皆様方、よろしいか?」
騎士団長は意味ありげに、わたしと、三匹のぶたさん(アート公、ウェストゲート公、サムストック公)の派遣した騎士団の大幹部三人組を見回した。三人組は、なぜだか知らないが厳しい表情で、小さくうなずく。
プチドラは、ここで、わたしの腕の中から飛び出して、ぴょんとわたしの肩に登り、
「マスター、こうなったら仕方ないね。決闘だよ」
「えっ!?」
わたしは驚いて、思わすプチドラに顔を向けた。
「決闘って? そんな話、聞いてないけど…… そういうものなの?」
すると、プチドラも難しい顔をして、こくりとうなずく。
ちなみに、中世ヨーロッパでは、犯罪行為が明らかであるにもかかわらず、証拠が不十分なため犯人が無罪になった、あるいは無罪となる公算が高いとき、被害者が決闘を申し込む「決闘裁判」なるものが行われていた。その背景には、神が正しい者に味方するという考え方がある。重傷者・老人・女性など戦闘に向かない者が被害者の場合は、代理を立てて争うこともできたようだ。中世ヨーロッパをモデルとしたファンタジーの世界に決闘裁判が存在することは、何ら不思議ではないが、少々唐突感が……
アース騎士団長は、わたしの顔をしげしげと見つめ、
「ウェルシー伯爵、本当によろしいですか。もっとも、決闘に際しては、自ら武器をふるって闘うのではなく、代理を立てることもできますが……」
わたしは小さくため息をつき、無言でうなずいた。この期に及んでは、決闘を受けないわけにいかないし、固より、こういう分かりやすい方法があるなら、むしろ望むところでもある。ただ、代理が認められるなら、行きがかりということもあり……
わたしはニコラスに向き直り、
「ニコラス、あなたに代理を頼みたいけど、いい?」
「えっ、代理ですか!? えーっ、はっ、はい! 喜んで!!」
ニコラスは、多少、驚いたふうを見せたが(自分が代理を頼まれるとは、思っていなかったのかもしれない)、すぐに、元気いっぱいの声で答えた。なお、この瞬間、アース騎士団長は眉間にしわを寄せ、顔をしかめた。ニコラスの技量に相当な不安を抱いているのだろうか。でも、決闘の現場では、プチドラの魔法で(例えば、ヤツら三人組を麻痺させるみたいな)こっそり支援をするつもりだから、問題はないと思う。
そして、結論的には、決闘の日時は一週間後の正午、場所は、ドラゴニアン・ハートの町の外れにある城壁を背にした(城門もほど近い)広場、実際に闘うのはニコラスと、ヤツら三人組のうち中肉中背の男(リーダー格なのだろう。今更だけど、名前はルイス・ベン・エドモンド・カートというらしい)と決まった。




