希望的観測
プチドラは、おそらく、何事が起こったのか全然理解できていないのだろう、アババババと大きな口を開け、頼りなげにフラフラあるいはクルクルと、2、3回、回転し、
「マスター……、どうなったじょ? 世界の……終わり??」
「しっかりしなさいよ。あなただけが頼りなんだから」
と、わたしはプチドラを抱き上げ、
「詳細は省略するけど、明かりが必要なのよ。頼むわ」
「明かり? 明かりでいいのね……」
プチドラは、状況がよく分からないながらも、最低限必要なところは理解できたのだろう、ブツブツと何やら魔法の言葉をつぶやいた。すると、あ~ら不思議、わたしたちの頭上にバレーボールくらいの大きさの光の玉が数個、プカプカと浮かび上がった。
わたしたちが大安室に入ると、毎度のことで、部屋の四方の壁にはビッシリと、いわゆるひとつの美少女フィギュアが並べられていた。ただ、目が慣れてきたためだろうか、最初にこの悪趣味を目の当たりにした時に比べると、少々インパクトが薄らいできたような気がする。
「ところで、マスター。しばらく見ない間に…… 世界はどう変わったじょ?」
プチドラは、きょろきょろと周囲を見回しながら言った。コンディションはまだ、100%完璧というわけにはいかないようだ。
「あなたが寝ている間、結構、いろいろあったのよ。アース騎士団長にとっては大変な話だけど、わたしにとっては……、どうかしら……」
わたしは、プチドラが寝ている間に起こっていたことについて、かいつまんで話した。
すると、プチドラは「ははは」と腹を抱えて笑い出し、
「そうだったんだ、それは大変だね。お気の毒と言うか、御愁傷様と言うか……」
「でも、一応、わたしの利害も関係するのよ。もし、これから先も三匹のぶたさんの騎士団、要するに、あのやかましい連中だけど、彼らがドラゴニアに居座り続けた場合、帝国宰相とドラゴニアとの間の話がこじれて、武力紛争が持ち上がるかもしれないわ。その場合は、プチドラ、あなたの大好きなワイン産地がどうなるか……」
すると、プチドラは、ハッと我に返ったように、
「えっ、ワイン!? それは困る。今すぐにでも、彼らには出て行ってもらわないと!」
「だから、彼らを出て行かせる方法、口実、あるいは法的根拠がないから、アース騎士団長は途方に暮れているのよ。さっきから、言ってるでしょう」
「そうだね、そうだったね……、えへへ……」
プチドラは何やら面目なさげに、小さい手を、大きな頭の大きな額に当てた。
ここまで話をしたところで、わたしは、おもむろに「ふぅ」と、ひと息。
「とりあえず、今日はゆっくり休みましょう。もしかしたら、そのうちにば、いい知恵が浮かぶかもしれないわ」
それほど簡単に知恵が湧いて出ることはないと思うけど、多分、なんとかなるのではないか(という、希望的観測)。




