治外法権
アース騎士団長の話が終わると、騎士たちは、話の会場になっていた大きな部屋(わたしたちが最初に来た時の宴会場)からゾロゾロと、部屋の外に向かって歩き出した。
わたしはアンジェラの手を引いて、群れ歩く騎士たちを迂回するような形で、アース騎士団長の前まで小走りに駆け、
「お疲れ様です、アース騎士団長。結構な災難だったみたいですね」
すると、アース騎士団長は「えっ!?」と驚き、
「ああ、これは、ウェルシー伯! 一体、いつの間に!?」
騎士団長は、今まで、やかましい三人組(三匹のぶたさん(アート公、ウェストゲート公、サムストック公)の騎士団の代表者)への対応等々のことで、頭がいっぱいだったのだろう。わたしやアンジェラとの間に物理的な距離もあったし、気付かなかったのも無理はない。
騎士団長は、わたしが「ご隠居様の城から戻ってきたが、不案内の下男か下僕しか対応に出なかったので、やむを得ず城内を歩いていると、偶然、この場に居合わせてしまった」旨の説明をすると、「ああ」と頭に手を当て、疲れた声で、
「これは面目ない。とんだ失礼をいたしました。早速、部屋の用意を……」
と、近くにいた側近と思しき騎士に、何やら指示を出した。
そして、しばらく……、部屋からアース騎士団長以外の騎士が退出し、わたし(及びプチドラ)、アンジェラ、騎士団長以外に誰もいなくなると、騎士団長は、何やらばつが悪そうな顔をして、
「聡明なウェルシー伯のことですから、現在の状況は既に把握されているのでしょう」
「あのやかましい連中のことですね。意味不明の理屈を付けて居座っているという……」
すると、アース騎士団長は、またも「ああ」と、うめくような声を上げ、
「やはり聞かれていましたか。まあ、正直、困っているのですよ」
わたしは、愛想笑いか苦笑いか、ともかくも表情を和らげ、
「御苦労は、お察しいたします。でも、もはや事態がここに至った以上……」
そして、少々背伸びしてアース騎士団長にささやきかけるように、
「この前は、『闇討ち』があっさりと却下されたかと思いますが、闇討ちではなく、例えば、何か適当に理屈を付けて彼らを罪に問い、ドラゴニアから追放というのは?」
「なるほど…… しかし、それができれば、ですが……」
アース騎士団長は、「ふぅ」とため息をついた。騎士団長によれば、今のところ、「ヤツら」を追放処分にできる理由は見つからないという。でも、「ヤツら」は、今まで傍若無人・好き勝手を繰り返してきたのではないか。その中には、犯罪行為の一つや二つくらい、いや、もっと……
騎士団長は、ここで三たび「ああ」と、そして、今度は悔しげに拳を握りしめ、
「わが主君が…… ヤツらに治外法権を認めちまってるのですよ」
すなわち、御曹司が押し込まれる前に出した「どんなことがあっても、アート公、ウェストゲート公、サムストック公の騎士団に逆らってはならない」との命令が、今も彼らに対する治外法権の保障として、効力を保っているらしい。




