ジャングルのような
アース騎士団長は、しかし、「あ~」とか「う~」とか言いつつ、わたしから目をそらし、
「いずれは分かることと思いますが…… う~む、どうしたものかな」
と、腕を組み、独り言のように言った。帝都での、御曹司の何を言いたいのか分からないもの言いや、ここでの騎士団長の怪しげな態度から察すると、御曹司が、債務の返済に関して、わたしをダシにして何かよからぬことを企てていることは、間違いなさそうな気配。
「でも、まあ…… とりあえず、わが主君とお会いいただきたい」
と、アース騎士団長は、再び歩き出した。わたしはそのすぐ後に続く。御曹司は何を考えているのだろう。この場で騎士団長を問い詰めて(具体的にはプチドラの火力で脅迫して)、ドロを吐かせてやろうかしら。でも、それではエレガントとは言えない。仮に御曹司が何か企んでいるのであれば、途中まで思惑に乗ったフリをし、肝心なところで裏切ることにすれば、少なくとも愉快ではあるだろう。そんなことを考えていると……
騎士団長は、やがて、牛とロバと山羊の頭蓋骨のようなものを埋め込んだ金属製のドアを開け、
「この部屋で、しばらくお待ち下さい。これでも、一応、応接間です」
「そうですか。これが……、とても応接間には見えませんが……」
わたしはアンジェラとともに、笑うしかなかった。部屋の中は、さながらジャングルのごとく背の高い草や蔓植物が生い茂り、部屋の中央に設けられた机や椅子も、丸太をそのまま利用したもので、人をバカにしているとしか思えなかったから。
「では、私は、わが主君を呼んできます」
アース騎士団長は、そう言って部屋を出、ジャングルのような応接間には、わたしとアンジェラ及びプチドラだけが残された。そのうち、本当に(冗談ではなく)、背の高い草と草の間から、ヒョッコリと野生動物が顔を出したりして……
プチドラは呆れ顔で周囲をグルリと見回し、
「すごいねえ。ご隠居様が亡くなる前、話には聞いてたんだけど、これほど、ハッキリ言って『ひどい』とは思わなかったよ。ムチャクチャだね」
「ラブホテルなのか、異次元の世界なのか、トロピカル熱帯雨林なのか……、支離滅裂ね」
わたしは丸太でできた椅子に腰を下ろした。座り心地については、人によっては自然の素材がよいという向きもあろう。アンジェラは、心地よさげに、丸太の椅子の上で体を左右に揺らしている。でも、わたし的には、堅くて最悪。今からでも遅くはない。このまま何も言わずに帝都に帰ろうかしら……
その時、不意に、入り口のドアが開き、
「おお~! よくぞ参られた、ウェルシー伯!!」
青白い顔をした御曹司が姿を現した。でも、その姿を見て、わたしとプチドラは唖然。というのは、御曹司はアロハシャツをさらにアロハにしたみたいな、なんとも言えない衣服をまとっていたから。自分の領内で自分の趣味を前面に押し出すのは勝手だけど、せめて客が来た時くらいは、もう少しマトモな格好をしてほしいものだ。