若い騎士たちのたっての願い
意味不明な、あるいは基地外じみた酒宴は、延々と続いた。
ニコラスはわたしとアンジェラの隣から場所を移動し、数名の騎士たち(特に気の合う仲間であろう)とともに、ワインの入った樽の前の特等席で陣取って、「酒に一番強いのは誰か決定飲み比べ大会」みたいな不毛なことを始めている。
プチドラは子犬サイズの小さな体で、自称「アルコール大王」の名に恥じることなく、何度も、桶に注がれたワインを一気に飲み干し、その度におかわりを要求している。時折、注ぎ方が悪いのか、他に何か気に入らないことがあるのか、若い騎士を火炎攻撃で火だるまにしてゲラゲラと笑っているが、火をかけられた騎士にとっては、本当に、たまったものではないだろう。
他方、アンジェラは、長時間の宴会に突き合わされて疲れたのだろう、わたしの膝の上に頭を乗せ、少しうとうとしている。わたしも、内心では、こんな馬鹿騒ぎはお開きにして、さっさと休みたいのだが……
考えてみれば……、いや、考えるほど難しい問題はない。ニコラスたち青年ドラゴニア党がご隠居様の城に立て籠もったのは、彼らの言い分に従えば、ドラゴニアの将来を巡る路線対立が理由だけど、だからといって、城に立て籠もらなければならない必然性はない。ご隠居様と御曹司の親子喧嘩の騎士団版みたいなものだ。
「ふぅ……」
わたしは特段深い意味もなく、小さく息を吐き出した。とりあえずは、手持ちぶさた、言い換えれば(より直裁的に言えば)ヒマなのだ。ただ、アンジェラがいる手前、わたしも皆と同じように酒乱になるわけにもいかないし……
こういうわけで、視線を上に向け、どうしたものかと思案していると、
「ウェルシー伯!!!」
いきなり、ニコラスがわたしの前に走り込み、両膝をついた。顔は真っ赤、かつ、目は血走っていて、見た感じも非常にヤバそうな雰囲気。
わたしは努めて平静を装い、
「あら、ニコラス、どうしたの?」
「実は、我々、青年ドラゴニア党より、たってのお願いなのです!!!」
「えっ、お願い!? どうしたの、急に???」
見ると、ニコラスの後ろには、若い騎士たちが何人か横一列に並び、ニコラスと同様、両膝をついていた。おそらくは、彼らが青年ドラゴニア党の指導部なのだろう。ちなみに、他の(言わば一般の)若い騎士たちは、わたしやニコラスには構わず宴会を続けている。
ニコラスは両手をドンと地面に着け、
「前にもお願いしたことですが、ここで、もう一度、考えていただきたいのです!」
「考えるって、何を?」
「ウェルシー伯にドラゴニアをお譲りしたい! 我々の総意です!! どうか!!!」
わたしは、その瞬間、「えっ!?」と、思わず、目が点。




