恒例の酒宴の開始
「おお! これはっ!!」
わたしたちは、驚きの声を上げた。
「どう? すごいでしょ。ここが秘密のワイン倉庫だよ」
プチドラは、エヘンと小さな胸を張った。
わたしたちがほんの十数秒前まで壁だと思っていたものは、秘密のワイン倉庫の入り口の隠し扉(可動壁あるいは可動間仕切り)だった。目の前には、広々とした(小中学校の体育館程度のスペースはあろう)空間が広がっており、ワインを詰めたと思しき樽が整然と列をなして積み上げられている。
プチドラは「わぉ!」と、大きな声を上げ、樽の山に駆け寄り、そして、ジャンプして、積み上げられた樽にヤモリのように貼り付き、
「うん、これだよ、比類なき最高品質、ドラゴニアワイン! 本当に素晴らしい!! 今日はエンドレス、地獄の淵が見えるまで、とことん飲むぞぉ!!!」
どうやら、秘密のワイン倉庫は、プチドラの見立てのとおり、かつて城内でご隠居様付きの騎士たちと御曹司の騎士団の間で激しい戦闘が行われたにもかかわらず、魔法仕掛けの秘密の扉(2カ所)に守られて、当時のまま残されていたようだ。
ニコラスと仲間の騎士たちは、まだ事情を完全に飲み込めていないのか、少々テンポが遅れつつもプチドラに続き、ともかくも「今日は久々に高級酒が飲めそうだ」という期待に心を動かされたのだろう、拳を突き上げて歓声を上げている。
「なんだか…… こういう場合、なんと言っていいのでしょう」
アンジェラは、呆れたような顔でわたしを見上げた。
「なんともね…… でも、まあ、いいんじゃない?」
わたしは少々苦笑しつつ、「ふぅ」と、ため息。とりあえず、ファンタジーの世界では、未成年の飲酒が違法ということはないだろう。アンジェラが急性アルコール中毒で倒れることがなければ、「まあ、いいか」みたいな。
こうして……
夕刻、ご隠居様の城の大広間では、ニコラスと仲間の騎士たちをホスト、わたし、アンジェラ及びプチドラを主賓とし、「懇親会」というタイトル・表題でもって、酒宴が始まろうとしていた。
「本日は、隻眼の黒龍……いや、プチドラ監修の懇親会に御出席いただき、ありがとうございます。前置きはさておき、さあ、皆さん、くぁんぱ~~い!」
「おー!!!」
最高級ドラゴニアワインを発見してハイテンションになっているプチドラが、どういうわけか(成り行きにより)、乾杯の音頭を取っている。
大広間には、口の字の形に席が設けられ、ニコラスを含め総数47名の騎士たちが勢揃いしていた。並べられた料理は、この近くで採れた山菜や捕獲された野生動物などを適当にカットして煮たり焼いたりといった、非常に素朴なもの。ただ、少なくとも、ドラゴニアン・ハート城のような有害なものではないだろう。




