秘密のワイン倉庫
ニコラスは、わたしたちをそれなりに広々とした部屋まで案内すると、
「では、歓迎会の用意ができるまで、しばらく、お待ちください」
そして、ガチャガチャと甲冑を鳴らし、せわしそうに早足で部屋を出た。
わたしは、特に深い意味はないが、「ふぅ」と小さく息を吐き出し、
「少し話でもしようかと思ったのに、何を慌ててるんだか……」
「きっと、酒宴の準備だよ。ドラゴニアの高級ワインを用意しなきゃ」
プチドラは、わたしの腕の中でニンマリ。口の端からは、相変わらずよだれが……、でも、これ以上は言わないことにしよう(余りにも品がない)。
わたしはベッドの上に「よいしょ」と腰を下ろし、
「プチドラ、さっきからドラゴニアの高級ワインばかり、それを飲めると決まったみたいな口ぶりだけど、本当に、そんなのがこのお城にあるの? 今までみたいに、債務の返済のために既に売り払われて、粗悪品しか残ってないんじゃない?」
「いや、大丈夫。今回に限っては、絶対、大丈夫だよ」
と、プチドラは、胸を張った。
「実は、このお城の地下には、ボクとご隠居様の秘密のワイン倉庫があるんだ。扉には魔法の鍵がかかってるから、おそらく、いや、100%確実に、手つかずで残ってるよ」
「ふ~ん……」
高級ワインが飲めるかどうかは、基本的に、わたしには興味のない話ではあるが……
プチドラは、すっくとベッドの上に立ち上がり、
「マスター、せっかくだから、飲み……じゃなくて、久しぶりに、ご隠居様の城の中を散策してみようよ。みんなで一緒に行けば、迷子にはならないよ」
わたしは「ふむふむ」と適当にうなずきつつ、気分的には、少々リラクタント。今プチドラが言いかけた言葉は、「飲みにいこうよ」に違いない。言うとおりにすると、数時間後、酔っ払ったミニチュアドラゴンを世話するハメになることは、目に見えているが……
他方、アンジェラは、ワインとは無関係に目をキラキラと輝かせ、
「お姉様、なんだか面白そうですね。もし、ニコラスさんたちに差し支えがなければ、この機会に、お城の中を見て回るのもいいと思います」
「そうね、じゃあ、そうしましょうか」
わたしは、正直なところ本意ではないが、プチドラを抱いて立ち上がった。
こうして、わたし(及びプチドラ)とアンジェラは、案内された部屋を出て、プチドラの言う「秘密のワイン倉庫」に向かった。その道中、プチドラは、「そこを右」とか「ここは左」とか、さながら道案内係。
わたしは、少々驚き、
「プチドラ、あなた、詳しいのね。わたしと出会うまでは、隻眼の黒龍として、地下道の先のホールでドッシリ構えていたとばかり思ってたけど」
「いや、たまに息抜きで、小さくなって城内を散歩したり、その他、いろいろとね」
と、プチドラは、ニンマリ。




