ご隠居様の城であった城に向けて
わたしは、もう一度アース騎士団長を見上げ、
「ふと思いついたのですが、わたしがニコラスのところに赴き、『馬鹿なことはやめて、父上様のところに戻りなさい』みたいに、説得を試みてみようかと思うのですが、いかがでしょうか」
「ウェルシー伯御自ら、説得していただけるのですか。それは……、まあ……、いい考えかと思いますが、わが息子も私に似て頑固者ですからなぁ……」
アース騎士団長は「う~ん」と、スッキリしない表情で言った。雰囲気的には、「あまり余計なことはしてくれるな」みたいな感じ。でも、ハッキリ「ダメ」と言われたわけではないので、
「説得する自信があるわけではないのですが、話し合っているうちに、もしかしたら、何らかの打開策が見つかるかもしれません。とはいえ、変に期待されることがあっても……、つまり、ひと言で言えば、いわゆる『ダメ元』で、行ってまいります」
と、わたしは半ば強引に、アース騎士団長に対して、ご隠居様の居城であったところの、(現在は)青年ドラゴニア党の根拠地への訪問を了承させてしまった。
ちなみに、プチドラは、わたしの腕の中で「よしっ!」と意味ありげにガッツポーズ。プチドラがこれほど感情をストレートに表現するということは……、その城で待っているのが何か、なんとなく想像がつこうというものだけど……、このことは、あまり考えないようにしよう。楽しい想像には、なりそうにない。
そして……、わたしたちは、ドラゴニアン・ハート城内に戻り、ひととおり城内を散策し、防衛設備等の見学等を行い、わたしだけは特に、座敷牢(意味的に精確に言えば「地下牢」)に押し込められた御曹司に面会(言い換えれば、冷やかしあるいは嘲笑)し、昼食、おやつ、夕食を取り、等々……、必要以上に説明的になってしまったけれど、詰まるところ、こうして一日が終わり……
その翌日、
「では、ウェルシー伯、お気をつけて。本来ならば、騎士団を挙げてお送りするところですが、諸事情により、そういうわけにもいかず、申し訳なく……」
たった一人、見送りに出たアース騎士団長が言った。「諸事情」が具体的になんなのかは分からないが、とにかく何かあるのだろう。
「いえ、全然。わたしたちこそ、お忙しいところを無理矢理訪れたようで……」
と、ともあれ、わたしは形式的に挨拶を済ませ、プチドラを空に向かって放つ。
「プチドラ、頼むわ」
すると、プチドラは、空中で体を象のように大きく膨らませ、巨大なコウモリの翼を左右に広げた。左目が爛々と輝く。こうして、たちまち、(地面に降り立った時には)子犬サイズのプチドラから、(こちらこそ本来の姿だけど)隻眼の黒龍モードに。
隻眼の黒龍は、その背中にわたしとアンジェラを(説明的に言えば、アンジェラを前、わたしをその後ろに)乗せると、巨大なコウモリの翼を更に大きく広げ、ゆっくりと大空に舞い上がるのだった。




