アース騎士団長
完全武装の戦士たちは武器を構え、わたしと隻眼の黒龍の周囲を取り囲んだ。ちょっぴり腰が引けているような気もしないではないが、(一般論としては)ものすごく恐ろしいドラゴンを相手に逃げ出さないのだから、それなりにプライドや職業倫理のようなものがあるのだろう。
戦士たちのうちのひとりが(この集団の隊長だろうか)、2、3歩、前に歩み出て、大きな声で叫ぶ。
「おまえたち、ドラゴニアン・ハート城に、一体、なんの用だ!?」
顔面が兜で覆われているので、どんな顔をしているのかは分からないが、声からすると、結構、若者っぽい感じ。ただ、「なんの用」と言われても、わたしとしては御曹司に呼ばれたから来ただけで、わたしの側に来たい理由などないのだが……
わたしは「ふぅ」と小さく息を吐き出し、
「面倒だから、とりあえず『正当防衛』ということで、殲滅しちゃったりして……」
すると、アンジェラはギョッとした表情で振り向き、わたしを見上げた。のみならず、隻眼の黒龍も、大きな頭をブルンと振り、
「いくらなんでも、それはワインが許さない…… じゃなくて、ここで話をこじらせると、ドラゴニア産のワインにありつけなくなるかもしれないよ」
隻眼の黒龍にとっては、とにもかくにもワインが最優先のようだ。
その時、ラブホテルのような城の中から、
「待て、ニコラス!」
という声とともに、立派な甲冑を身にまとった男が小走りに駆けてきた(ただし、兜はかぶっていない)。見たところ、中年よりも上だけど初老の域には達していない感じ。
「父上、怪しい者が侵入してまいりました。我々は、ドラゴニア騎士団の務めとして……」
「怪しい者ではない。おまえには話していなかったかもしれないが、この方たちの素性は知れている」
その「父上」と呼ばれた男は、隻眼の黒龍を横目で見ながら、
「ニコラスよ、おまえもドラゴニア騎士団の一員なら、隻眼の黒龍のことは、知っていよう」
「えっ、隻眼の黒龍!? そっ、そんなっ!!!」
ニコラスと呼ばれた男は、ビックリ仰天。武器を取り落とし、泡を食ったように何歩か後退すると、バランスを崩して尻餅をついた。
男は、「やれやれ」とばかりに長く嘆息し、
「息子がとんだご無礼を…… ひらに、お許し頂きたい。申し遅れましたが、私はドラゴニア騎士団長、ロバート・バーナード・ジョン・アース、そちらにひっくり返っているのが、不肖、息子のニコラスです」
アース騎士団長と名乗った男は、ペコリと頭を下げた。
「そして……」
アース騎士団長は「あぁ」と嘆息するように額に手を当て、ラブホテルのような城に顔を向けると、
「あそこにいるのが、わが主君、ドラゴニア侯ですが……」
城の窓からは、御曹司が、愛人であろう女性とともに、青白い顔を突き出していた。




