やはり家庭の事情
ニコラスとアース騎士団長(と思しき人物)の問答は、30分程度続いた。なお、その声から、緋色のマントをまとった騎士集団がニコラスとその仲間たち、彼らを取り囲むようにしているのがアース騎士団長と配下の騎士たちであることが、ほぼ間違いなく推測できる。考えられるシチュエーションとしては、ニコラスが要求あるいは強請のため仲間とともに城外からドラゴニアン・ハート城に押しかけ、これに対し、アース騎士団長が城内から配下の騎士たちを連れて対応に出たということだろう。
二人の話に耳を澄ましていると、議論のやりとりが同じところをループして、何度も最初の出発点に戻ってしまうという、結論の出ない話し合いにありがちなパターンに陥っていることが分かる。つまり、両者とも、三匹のぶたさん(ウェストゲート公、アート公及びサムストック公)の騎士団を追放したいという点では意見が一致しているが、場合によっては実力行使も辞さないニコラスと、対外的に説明のつかない流血沙汰は論外というアース騎士団長の間で、いつまでたっても合意を見出せない状態になっているということ。
二人の話を聞いていたアンジェラは、やがて、「ふぅ」と疲れたように息を吐き出し、
「こういう話なら、何時間話し合っても、結論は出ないと思います」
すると、プチドラも、同意というように、わたしの腕の中で何度か首を上下させた。
この二人がニコラスとアース騎士団長なら(まず間違いないだろう)、昨日の話の最後に騎士団長が「家庭の(「事情」と言いかけていたと考えられる)……」とポロッと漏らしてしまったことも、なんとなくうなずけるというものだろう。
そして、ついには……
「分かりました! いや、『分かりました』は納得ではなくて…… とにかく、我々は我々の方式で、ドラゴニア騎士団の名誉を最大限尊重する形で、対処させていただきます!」
ニコラス(と思しき人物)は、そう言って仲間に合図を送り、仲間とともに、くるりと向きを変え、ドラゴニアン・ハート城の中庭から城外に向かって退去を始めた。アース騎士団長(と思しき人物)は、引き留めるでもなく、追うでもなく、少し距離があるのでハッキリ分からないが、「ふぅ~」と長い嘆息をしている様子。
やがて、緋色のマントの騎士集団が中庭から完全にいなくなってしまうと、アース騎士団長(と思しき人物)は、他の騎士たちに「戻ろう」という意味であろう、ジェスチャーで指示を送り、わたしたちがいるところに向かって歩き始めた。
一方、離れてその様子をうかがっていたわたしたちは……
「お姉様、これは、もしかしたら、ちょっとまずいかも」
アンジェラはブルッと体を震わせ、わたしを見上げた。
「確かに、まずいかもしれないけど…… でも、こういう興味深い場面を見せられた後では、一体何事なのか、確かめないではいられないわ」
と、わたしはプチドラを抱いて、おもむろに中庭に向けて第一歩を踏み出した。
すると、中庭から城内に向かっていた騎士の集団は、わたしがいることに気がついたのだろう、一斉に足を止めた。




