廊下を走る騎士
わたしは「よいしょ」と立ち上がり、プチドラを抱き、
「じゃ、アンジェラ、城内の散策に行きましょう」
「はい、お姉様」
わたしは「右松の間」の扉を開け、アンジェラを伴って、廊下に出た。ドラゴニアン・ハート城内は、さっきのがさつな三人組を除けば、廊下を歩く耳の音が耳につくくらい、今はひっそりと静まり返っている。
わたしは「はて」と首をかしげ、ふと……
「でも、なんだか、やっぱり、ちょっぴり、変」
「どうしたの、マスター? 『変』って、何が?」
プチドラはそう言って、わたしを見上げた。
「少しおかしいと思わない? あのやかましい三人組を除いて、今日は朝からドラゴニアの騎士を見ていないのよ。アンジェラは、起きてから騎士団長に会ったみたいだけど」
「まあ、おかしいと言われれば、そうかもね。でも、みんな忙しくて出払ってるということも、往々にして、あると思うよ」
「忙しいとしても、お客がいる時に…… まあ、いいか」
こうして、城内の廊下を更に進んでいくと、後方からドタバタ……ではなく、ガシャガシャと大きな金属音を立て、甲冑を身にまとった数人の男たちが駆けてきた。
アンジェラは、さっと体を壁際に寄せ、
「あの人たちは…… ドラゴニアの騎士さんでよろしいのでしょうか?」
「多分、そうじゃない? 一応、城内には、三匹のぶたさんの騎士団もいるみたいだけど、見た感じでは、あの人たち、それほど太ってないわ」
と、わたしも、プチドラを抱いたまま体を壁際に寄せた。なお、三匹のぶたさん(アート公、ウェストゲート公、サムストック公)が太っているからといって、配下の騎士たちも太っているという科学的根拠は、一切存在しない。ともあれ、城内にわたしたち(及び、あのがさつな三人組)のほかに誰もいないわけではないということが分かって、わたし的には、なんとなくホッとしたような気分。
騎士たちは程なくして、わたしたちのすぐ横を駆け抜けていった。何をそう慌てているのか知らないが、御苦労なことだ。
アンジェラは、その騎士たちの背中を目で追いながら、
「お姉様、なんだか…… お姉様は、気になりませんか?」
「……って、何が? あの騎士たちが慌ててた理由??」
「騎士さんたちについて行ってみれば、もしかしたら、何か興味深いことが……」
「興味深いことって……、どんなことかしら? ついて行ってもお金儲けの話が転がっているとは思えないけど、アンジェラがそう言うのなら……」
正直なところ、あまり気は進まないが、アンジェラが興味を示したのなら、付き合ってみるのも、悪いとは言えないだろう(つまり、消極的な理由)ということで……
わたしはプチドラを抱き、アンジェラとともに、遠ざかっていく騎士たちの後を小走りに追った。




