ドラゴニアン・ハート
ドラゴニア侯領の中心都市にして御曹司の居城があるドラゴニアン・ハートは、地理的にもドラゴニアのほぼ真ん中にあり、帝国の北中部を流れる大河に注ぎ込む支流の、さらにその支流との合流点に位置している。隻眼の黒龍の解説によれば、地方都市としてはそれなりに大きな町だとか。
隻眼の黒龍は、ドラゴニアン・ハートに近づくと、ルンルンと鼻歌交じりに、「ドラゴニアでは、食べ物は美味しいものばかりだよ。その中でも特に、ドラゴニア産のワインは最高。ドラゴニアン・ハートに着いたら、浴びるほど、飲むぞぉ~!!!」
隻眼の黒龍はワインの味を思い出したのか、まだ飲んでもないのに、右に左にふらつき運転。「アルコール大王」を自称しているけど、その割には、結構、危なっかしかったりする。
そして、程なくして、
「マスター、見えてきたよ、これがドラゴニアン・ハートの町」
前方には、ウェルシーのミーの町よりも規模は大きいが、どこかひなびた感のある町並みが広がっていた。町は周囲を城壁に、また、更にその外側からは田園に取り囲まれている。
「へえ~、これがドラゴニアン・ハートの町なのね。まあ、なんというか……、でも、なんということもない町ね」
「そうだね。なんということはないけど、やっぱり、ドラゴニア産のワインは最高だよ」
頭の中は、とにかくドラゴニア産のワインのことで一杯らしい。
隻眼の黒龍は、徐々に高度を下げた。二つの支流の合流部分には、歴代のドラゴニア侯の居城なのだろうが、赤とか青とか黄色とか、原色でコテコテ塗り固めたような、なんだか違和感がある石造りの建築物が……
「あの~、あそこに見える、無闇矢鱈と派手派手な……、なんというか……、ひと言で言えば、そう、ラブホテルみたいなのは?」
あれは、歴代のドラゴニア侯が住まうドラゴニアン・ハート城。以前はもっと、シックで小粋な感じがしてたんだけど、今のアレは、まあ……、御曹司の趣味だね」
ドラゴニアン・ハート城は、かつて「偉大なる趣味人」として歴史に名を残した5代目ドラゴニア侯が築城し、当時としては最も堅固、芸術的、かつ前衛的な城として、帝国で最も有名なもののひとつだったということだけど、御曹司がこの城の主として収まってからは、すっかり変わってしまったらしい。
「ご隠居様、つまり先代ドラゴニア侯からきいた話だけど、御曹司は若いころ、『歴史上空前にして絶後の最も偉大なる趣味人』を目指すとかなんとか言ってたそうだよ」
「そうなの……」
確かに、空前絶後の趣味人には違いないだろう。ただ、趣味は趣味でも「悪趣味」だけど……
ちなみに、アンジェラは、その悪趣味ぶりに、あんぐりと口を大きく開けている。
やがて、隻眼の黒龍はスピードを落とし、ドラゴニアン・ハート城の中庭に着陸した。すると、よくあることだが、間髪を入れず、騎士だか衛兵だか、甲冑に身を固めた戦士がバタバタと飛び出してきた。