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私、吸血鬼だよ?

 腰辺りまである銀色の髪。透き通った白い肌は、水滴が光を反射して輝いて見える。じっと見つめてくるその瞳は、深い海底の水を閉じ込めた様に、青く美しい色をしていた。胸は童顔にしてはそこそこ大きく……って、いやいやいや。見ず知らずの女の子の裸をまじまじと見つめるものではない。片手で目を覆いそっぽを向く。

「あーすまん!人がいるとは思わなくて。見るつもりは決してなかったというか___」

「あなた、喋れるの?」

 少女は裸を見られたことなど気にしてない様で、話など耳には届いてないようだ。一方的に話し掛けながらざぶざぶと水の中を歩き、岸へ上がる。

「お話ができるドラゴンに会ったのは初めて。ねぇ、あなたはえらいドラゴンさん?」

 目をきらきらと輝かせながら、近寄ってくる全裸の少女に戸惑う。

 てか、俺はドラゴンなんだった。人間じゃないから見られても問題ないということか。犬猫と同じ扱いの様で複雑な気分だ。

「ねぇ、聞いてる……?」

 いつの間にか足元にまで来ていた少女は、きょとんと首をかしげ上目使いで聞いてきた。

「えーと、とりあえず服を着ようか」

「なんで?……ふーん、人間のメスの裸をみて欲情したの?えっちなドラゴンさんなのね」

「欲情してねぇよ!えっちなドラゴン言うな!」

 クスクスと笑う少女は、傍に置いてあった服に着替えた。黒いサスペンダースカートに白いワイシャツといった、なんだか小学生みたいな格好だ。

「これでいい?私は、ネシリア・アイネス。あなたは?」

 唐突に自己紹介を始めたリアーネと名乗る少女は名前を聞いてきた。名前。名前か。改めて考えると、今の俺には名前はない。今から考えるのも面倒だ。前世と同じく『マサムネ』でいいや。

「俺はマサムネだ」

「マサムネ?かわった名前」

 俺からしたら『ネシリア』の方が変わった名前だ。雰囲気が外国に近いこっちだと、日本語の『マサムネ』の方が変わっているのだろう。

「そうだな。こっちの方じゃ変わってるのかもな」

「ドラゴンの間じゃ普通、ってこと?まあいいや。ところで、あなたはこんなところに何しに来たの?私を食べに来たの?」

 食べる?俺が?人間を?

 冗談じゃない。

 と思ったのと同時に、はっとした____。


 ____俺はドラゴンだ。


 この世は弱肉強食。それはどこでも一緒だろう。人間が生き物を食べる様に、弱い者は強い者に食べられるのがルール。今俺はその人間で、ネシリアは家畜のような立場なのかもしれない。

「……喰わねぇよ。俺は人間が好きなんでな」

「そうなんだ。私と同じ?私も、人間は殺さないようにしてる」

「え?」

 どういう意味だと問おうとしたとき、木陰からグルル……と何かの鳴き声が聞こえた。

「ゴブリン。丁度いい。水浴び後で喉が乾いてたの」

 俺の後ろからひょっこり出てきて、ネシリアはすたすたと声のした方へ歩いて行った。ゴブリンも木陰からぞろぞろと六体ほど出てくる。

「お、おい待て。何するつもりだ」

「何って、ころすの」

 ネシリアは唇を舐めると手を前に伸ばした。すると、足元に漫画とかでよく見る魔方陣が広がった。そこから出てきた物は、ワインの様に赤い剣だった。先の方は明るい赤なのに、柄の方へいくに連れて赤黒い色へと変わっている。まるで血で創られた剣。それを掴むと、ネシリアはゴブリンに向かって走り出す。ゴブリンも手に握っている棍棒を振り回しながら突進してくるが、それをぎりぎりのところで交わし、一体、また一体と、次々倒していく。まるで踊っているかの様に攻撃を交わし、斬る。最後の一体を倒し終えると剣をブンッと振り、付着していた血を振り払った。

「それじゃあ、いただきます」

 そこら辺に転がっていたゴブリンの腕を拾い、満面の笑みでかぶりつく。

「え、お前。何食べてんの?」

「? ゴブリン」

「うん見ればわかるよ?なんで食べてんの?」

 そう聞くとネシリアは一度動きを止め、くるりと俺の方を向くと、小首を傾げて。

「なんでって、お腹空いたから。吸血鬼が血を飲むのは変?」

 俺を見つめてくるその瞳はさっきとは打って変わって、紅く染まっていた。



 話を聞くと、どうやらネシリアは吸血鬼のようだ。目が紅くなるのは興奮したり血を飲んだりした時だけらしい。本人曰く「人間のメスの裸、とは言ったけど中身まで人間だとは言ってない。勘違いしたのはマサムネ」だそうだ。いや確かにそう言ってたけど。そこまで深追いしないといけなかったのか。リアーネはゴブリンの血を飲み終わると、礼儀正しく「ご馳走さまでした」と言い俺に話しかけてきた。

「そういえば、結局聞けてなかった。私を食べに来たんじゃないなら、こんなところで何をしていたの?」

「いや、なんもしてねぇよ。俺は違う世界から来たんだ。元は人間なんだよ。女神に転生してもらったんだが、ドラゴンになっちまってな。これからどうするか検討中だ」

「そうなの?女神様も気まぐれなのね」

 ネシリアは湖に向かい、手に付いた血を洗い流す。

「驚かないのか?」

「何に?」

「俺がこの世界の奴じゃないってことに」

「べつに。神様が使う魔術なら、転生も可能だと思う」

「この世界は、魔法が使えるのか?」

「マサムネの世界は使えないの?そもそも、魔法じゃない、魔術」

「何が違うんだ?」

「魔術は、自分の魔力を使って作り出すエネルギーみたいなもの。その魔術の式、ルールみたいなものが魔法」

「ふーん」

 俺がいた世界とはかなり違うな。まぁゴブリンやら吸血鬼やらいるんだから当たり前か。俺もドラゴンな訳だし。ていうか、もしや俺も魔術が使えたりして……。

「さて、そろそろ行かなきゃ」

 すっくと立ち上がると、ネシリアはスカートをパンパンと叩き、笑顔を見せた。

「行くってどこにだ」

「私、仲間を探してるの。一緒に戦ってくれる仲間を。もうじきモンスター同士の争いが起きるから。それを止めなきゃ」

 モンスター同士の争い?それを止める?それはコイツがしなきゃいけないことなのか。

「なんでお前は止めようと思ってるんだ」

「争いが始まったら、人間にも、自然にも影響がでてしまう。それはいけないこと。私は人間が好き。自然も好き。こわしたくない。こわさせたくないから」

 ネシリアの目は真剣だった。その真っ直ぐな目を見ると、手を貸してやりたいと思った。

「……仲間は見つかったのか?」

 静かに首を横に振る。

「俺、一緒に戦ってもいいけど」

「……ほんと?」

「あぁ。俺も元が人間なだけあって、大勢の人間が死ぬとこなんて見たくないからな。それに、これからやることとかねぇし」

 ん、と俺は握手をしようと手を出した。ドラゴンの手は大きく、ネシリアなんて握り潰してしまいそうだ。広げていた手を閉じて、人差し指を出す。ネシリアは何をするのかわかってない様で、握手だと言うと人差し指に抱きついてきた。

「いや、握手だって言ったろ」

「マサムネの手、大きいから。それに私、嬉しいの。心臓がどきどきして……。伝わる?」

 ぎゅっと指を抱き締めてくる。なんかトクントクンと鼓動らしきものが伝わって。ていうかこれ、胸当たってるのか。そんなに感触がない。指がでかいからか?

「……おっぱい好きなの?やっぱりえっちなドラゴンさんね」

「好きじゃねぇよ!だからえっちなドラゴン言うなって!」

 楽しそうに、嬉しそうに笑うネシリア。出ていった娘を思い出す。小さい頃はこんな風に笑ってたっけな。

「これから宜しくね。マサムネ」

 少し頬を赤らめながら、指に頬擦りしてくるネシリアに、俺もああと答えた。これからがこの世界での人生だ。吸血鬼の少女と争いを止めるなんてことになったが、俺に止められるのか。不安なのはネシリアも同じだろう。大人数に立ち向かうっていうのは簡単なことじゃない。でも、一人に背負わせるには荷が重すぎる。俺に何ができるかわからないが、とりあえずはネシリアを手伝っていこうと思った。

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