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新しい人生、ドラゴンでした。

『リアルなんてクソゲーだ』

 どこかで聞いたことがある台詞。激しく同感である。

 二十代まではリアルもいいものだった。高校、大学もそれなりにいいところに行けたし、就職も上手くいって仕事も順調だった。

 それが、どこで道を間違えたんだろうか。

 三十歳過ぎてから、徐々に不幸な事が多くなっていった。ガムを踏んづけ、会社は経営が上手くいかなくなり潰れ、仕事には就けなくなり、嫁と娘には逃げられ、そして今まさに銀行強盗が入ってくるという最高に不幸な事に見舞われている。

「オラァ!金出せ!てめぇらは動くんじゃねぇぞ!」

 覆面を被ったなんとも強盗らしい服装の強盗集団は、刃物を客や店員に見せつけている。ATMの前にいた俺も他の客と同じ場所に連れていかれた。

 この状況、どうしたものか。怖いくせにどうにかしようとしている自分がどうかしている。こういうのは何もせずにじっとしておくのが普通というものだ。だが俺はこのピンチをどうにかすれば何か良いことが起きるのではと思った。幸い手足は縛られていない。それだけは幸運だ。強盗犯の隙をみて後ろからタックルを仕掛ける。倒れたところで持っていた刃物を取り上げた。よし、これで……!

 刃物を持って立ち上がった途端、パンッという破裂音が聞こえた。驚いた俺の視界には天井が映る。それが撃たれたと分かった時には、背中はぬるま湯に浸かった時のように生温かった。強盗犯は銃を隠し持っていたのだ。くそ……日本は拳銃持ってちゃ駄目だろッ……それなら最初から銃で脅しとけよ……ッ。

 そんなことを考えているうちにどんどん意識は遠退いていく。

 後半クソみたいな俺の人生は、ここで幕を閉じたのだった。



「あのー、そろそろ起きてくださぁ~い。……あらあら、起きませんねぇ~?」

 頭の上から声が聞こえる。ふわふわした女の声だ。

「起きないと来世ミジンコにしちゃいますよ~?」

 ミジンコ?あの微生物の?堪ったもんじゃない。これは早く起きなければ。

「起きます起きます!ミジンコは勘弁してくれ!」

 ぐわっと目を開けると、そこには大きな女の顔が。

「うわああああああああああ!?きょ……巨人!?」

「む、女神様に失礼ですね。まず私が大きいのではなくて、貴方が人魂だから大きく見えるだけなのですよ~?」

「人魂?……てか、あんた女神なのか」

「はい。れっきとした女神様なのです~!」

 むふんっと、女神様はドヤ顔をキメて豊満な胸を張る。そうか。俺は銃で撃たれて死んだ。それで女神様の前にいるのか。きっとこれから天国にいくか地獄にいくか決められるのだろう。

「それで女神様。俺は天国ですか地獄ですか。俺、散々な人生だったんで、できれば天国に行きたいんですけど……」

「そうですね~散々でしたね~。ほんとに最後まで散々でした。だって、あのままじっとしておけば、三分後には救助が来て助かってますし、貴方の不幸ライフもあれで終わりのはずだったのに~……」

「……え?」

 三分?たった三分待てば、俺は死なずに済んだのか。しかも不幸ライフが終わっていた?それじゃあ、それじゃあ俺は……。

「無駄死にじゃないかあああああああ!!」

「はい!最後までクソみたいな人生でしたね~!」

「やめろ言うな!」

 改めて言われると沈む。他人から言われるとなると更に沈む。なんで俺がこんな目に逢わなくちゃいけないんだ。

「それでですね、私もこれは流石に可哀想だなぁと思って、良いこと思いついたんです!」

 女神様は顔から星が出てくるんじゃないかと言うくらいのビックスマイルで、話し掛けてきた。

「転生、しませんか?」

「転……生?」

「そうです~!転生です!元の世界に……という訳ではありませんが、異世界で皆さんから注目を浴びる存在なんてどうでしょう~?悪い話ではないのでは~?」

 異世界で注目を浴びる存在?貴族や勇者、はたまた美形の王子様……。悪くない。なんて華やかな雰囲気……!!

「そんなことできるんですか!?ほんとに!?勿論イケメンにしてくれますよね!!」

「勿論!どんな人からも注目を浴びるイケメンに転生させちゃいます!」

「うおおおおおおおお!是非!是非お願いします!」

 これは、今までの不幸を哀れに思った神様からの救済。願ってもないチャンス。こんな上手い話、乗らない訳がない!

「わかりました~!それでは、強くてカッコいいイケメンな人生を送って下さい!」

「はい!ありがとうございます!ほんとに、ありがとうございます!」

 そう言った途端、俺は光に包まれ、視界は真っ白になった。

「くれぐれも、異世界で狩られないように注意して下さいね~」

 最後に何か聞こえた気がしたが、俺は特に気にしなかった。なんせこれからは俺の人生勝ち組確定なんだからな!



 次に目が覚めると、そこは草原だった。どこまでも青い空。前世では見たことがないくらい広くて、緑だらけで、コンクリートなんて見渡す限りどこにもない大草原。本当に、本当に転生できたのか!さて自分はどんな格好なのだろうか。そう思って手を見つめる。うん。銀色のでっかい爪だ。それに黒くてゴツゴツした手。

 ……ん?いや待て。何かおかしい。人間に大きな爪が生えている訳がない。辺りを見渡すと湖があった。鏡代わりに湖で自分の体を見てみよう。湖に向かって歩き出すが、どうも目線が高いことに気づく。それに、歩く度にドシンドシンと地鳴りが聞こえる。様々な疑問を持って湖の前に行くと、その疑問は一瞬にして解決していった。湖に映っていたのは人間ではなかった。そこにいたのは……。

『ドラゴン』だった。

 全身真っ黒のいかにも凶悪そうなドラゴン。大きな翼を背に巨大な牙と爪が湖に映っている。これが……俺?勇者でも王子様でも、ましてや人間でもない。あのクソ女神!はめやがったな!

 ドラゴンの中ではイケメンなのかもしれないが、俺の求めていたイケメンとは違う。というか誰が人間ではなくドラゴンだと予測できただろうか。

 だがなってしまったものはしょうがない。女神も『人間に』など一言も言ってはいなかった。

 さて、これからどうすればいいものか。探せば町の一つや二つくらいあるだろう。だが見つけたとして入れるかどうかが問題だ。襲いにきたと勘違いされて、何をされるかわからない。そんなことを考えながら湖を見つめていると、ぱしゃり。と水が跳ねる音が聞こえた。

 音がした方に顔を向けるとそこには全裸の女の子が、水の中から立ち上がっていた。

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