狂
扇風機は順調に私にぬるい風を送ってくる。
暗闇に漏れる携帯の光。
耳にはイヤホン。
私は音楽に支配されていた。
神を信じ捧げた体は穢れていた。
未来を、夢見て私は輝いていた。
あの日は、私を変えてしまうにはちょうど良かった。
買ったばかりの本を電車で読む。
私にとっては非現実的世界を綴る、語る狂った本。
何かにとりつかれたように私は紙の上を記号をめで追う。
電車がおりる駅に着いた時には私は変わっていた。
狂ってた。
知らない男が私を呼んでいる。
行かなきゃ。
マリアが私を悲しそうに見ていた。
神が怒る。
私は、笑っていた。
生暖かい風が体に纏わり付く。
柔らかな肉を求めてさまよう手。
激しい息遣い。
私は、濡れていた。
痛みが私を生かしていくれる。
そんな気がした。
あの日私は血を流した。
彼女の涙だったのかもしれない。
私は自ら己を失い、そして手に入れた。
私の心に光は届かない。
ひたすらあの肉を求めている。
さあ今日も行く時間がきた。
鞄に携帯電話を突っ込んで耳にはイヤホン。
私は音楽に支配されている。
微かに猫の発情した声が聞こえた。
空を見上げると月は半分欠けている。
欠けた月は何かに追われたように移動していく。
私は何かに追われているのだろうか。
何を考えてるんだろう。
再び前を向いて見慣れた闇の中を歩く。
あの日感じた感情を確かめるために。