8 騎士さんの悩みを解決
8月15日レイアウトの変更。内容は変わりません。
昼食を済まし、休憩中の札を外してすぐに、ニコラさんがやって来ました。
「いらっしゃいませ! ニコラさん」
「こんにちは、サラサちゃん。お店の調子はどうだい?」
「今のところ順調です!」
どうやら、仕事が終わってすぐに来てくれたようです。ありがたいことです。
ニコラさんは仕事が一段落したようで、一度家に帰るとのことです。
「いや、それにしても、以外な物があって面白い店だね」
他に言いようがないのか、純粋に誉めてくれているのか。よくわかりませんが、興味深くはあるようです。
「これから帰るから、娘に何か買ってやろうと思ってるんだが、何かいい物あるかな?」
「それなら、食べ物がいいですよ。今のところダンジョンで手に入る食べ物は、とっても美味しいですから」
「へえ、そうなのかい。じゃあ、そうしようかな。適当に選んでもらえるかな?」
やはり、ダンジョンの食べ物については、一般的にはあまり知られていないようです。
「甘い物がいいなら、蜂蜜とクッキーがありますよ。料理に使うなら、薬草とクラッカーがいいですよ。このリンゴもデザートとして最高ですよ」
「え? 薬草で料理するのか?」
そうですよねぇ、驚きますよね。普通の薬草はとても苦いですから。
実は、午前中に来たお客さんに教えられました。
ダンジョンの薬草の美味しさを知っている料理人さんで、サラダやスープに入れて食べるそうです。健康的な食事になり、元気が出るそうです。……そりゃそうですよね、体力回復の薬草ですから。
「ダンジョンの薬草は苦くないですから。薬草料理は元気になりますよ」
「そうか……悩むなぁ……。どうせだから、言ってたやつを全部一つずつくれ」
「こっちは嬉しいですけど、いいんですか?」
ニコラさんも開店祝いのつもりなのかな? そうだとしても、嬉しいです。
さっそく、アイテムをまとめて、ニコラさんへと渡しました。
「こっちこそ、珍しい物ありがとよ! そうだ、何か家に伝言等あったら伝えるぞ」
私の実家とニコラさんの家は近いので、今後、手紙とかをついでに届けてくれるとのことです。
「ありがとうございます! 今回は特にないので、元気でやっているとだけ伝えて下さい」
「了解した。じゃあまたな!」
ニコラさんはお金を支払うと、そう言って荷物を持って帰って行かれました。
ニコラさんを見送ってから、再び店内のカウンターの所にある椅子に座り、お客さんを待ちます。
しばらくすると、この町に引っ越して来たときに出会った騎士さんが、お店にやって来られました。
「いらっしゃいませ!」
「こんにちは。無事にお店が開けたようだね。今、休憩中なので、ちょっと寄らせてもらったよ」
貴重な休憩時間にわざわざ来てくださるとは、なんていい人なんでしょう!
「ありがとうございます! 今日はどちらの門ですか?」
この町には、五つの門があります。その内、北の上級ダンジョンへの門以外を、一般の騎士の方が交代で守っておられます。北は、ベテランでレベルが高い騎士の方しか担当できないようです。
「昨日から中級ダンジョンの門の担当だよ。それにしても、本当にダンジョンの物ならなんでも扱うんだねえ」
実は、来店された皆さん、言葉には出されませんが、必ず、右の棚の下にこっそり置いてある『ゴミ』を確認されます……。
「実は、ちょっと相談があるんだけど、今いいかな?」
「私にですか? 今なら他に誰もいないので大丈夫ですけど」
いったい何事でしょう? 私で役に立つのか、ちょっと不安です。
騎士の方は、申し訳なさそうな表情で話し始められました。
「中級ダンジョンでマナーの悪い人達が結構いてね、要らない物を道端に捨てて行くんだよ。放っておくと町が汚くなってしまうから、見回りの時に私達が拾って帰って、騎士の詰め所に一時保管して、後日まとめて処理するんだけど、それが手間でね」
あれ? なんでそんなことになるのでしょうか?
「なぜダンジョンの外まで持って出ているのでしょうか? ダンジョンの中に置いて帰れば、消えるのではないですか?」
「それが、中級ダンジョンの、特定の魔物が使う魔法が原因なんだよ。荷物に入れているアイテムを、いつの間にか壊したり腐らしたりしててね」
なるほど、そういうことですか。その光景が目に浮かぶようです。私も中級ダンジョンへ行くときには気をつけねば。
「要するに、出てきた後に、やられちゃったことに気付いて腹を立て、投げ捨てて行くという事ですか?」
「そういうこと。いくら注意しても無駄。今までは1Gにもならなかったけど、ここで買い取ってくれるなら、私達も助かる。とりあえず一つずつ持ってきてみたから、見てくれるかな」
そういうことなら協力しましょう。
たいした金額にはならないでしょうが、まだ私が手に入れてない物もあるでしょう。それに、アイテム個数を稼ぐのに、この方法はいいかもしれません。
「分かりました。値段をつけるためにも、まず見させてもらいます」
そう言うと、騎士さんは早速カウンターにアイテムを並べました。
予想通り、初めて見る物がありました。
そして、壊れた装備品と腐った食べ物は、やはり『ゴミ』とは別物のようです。
カウンターの下にこっそりと作っておいた、お客からは見えない場所の棚にアイテム本を出します。
アイテムを調べる振りをしつつ、本を見ることにします。
本を見ると、まだ買取していないアイテムはシルエットのままで、詳細は分かりませんが、名前と価格は分かるようになっていました。
初めてのアイテムは、以下の物です。
☆初級ダンジョン
No.26 腐った食物 価格:5G
No.30 破れた服 価格:10G
No.31 壊れた防具 価格:10G
No.32 バラバラのブレスレット 価格:10G
☆中級ダンジョン
No.62 壊れたイヤリング 価格:10G
以上です。
あとは、『折れたナイフ』『折れた剣』『折れた棒』でした。
中級のアイテムは、No.33からNo.72までの四十種類あるようです。
なんとな~く、番号の付け方が分かってきました。……No.62より後が、すべて壊れちゃったシリーズでないことを祈るばかりです。
それにしても、中級ダンジョンでも、初級ダンジョンのアイテムの一部が手に入るということが分かりました。
「とりあえず、買取価格をお伝えしますと、腐った食物が2Gで、あとは全部5Gとなります」
買取価格を伝えると、騎士さんの想像より高い金額だったのか、とても驚いておられます。
「それはありがたい。その金額でいいので、全部持ってきていいかな?」
いったいどれだけの量あるのやら……。ちょっと怖いので聞いておきます。
「どれ位の量あるのですか?」
「とりあえず、背負い袋二つ分くらいかな。量的には、腐った食物が多いかもね」
おお、なんと勿体ない。腐る前は、さぞかし美味しい食物だったろうに……。
「いつ頃持って来られますか?」
「上司に報告してから荷物をまとめるので、少し時間がかかるかな。今日の日が暮れる前までには持って来るよ」
「承知しました。では、来られるまではお店を開けておきます」
「ありがとう。いや助かった。……そういえば、まだ名乗っていなかったな、失礼した。私はカインという。今後ともよろしく」
「サラサです。カインさん、こちらこそ今後ともよろしくお願いします」
カインさんは爽やかな笑顔で挨拶し、颯爽と帰って行かれました。
その後、道行く人が何人か目玉商品を見て買っていきました。
そして、日が暮れる頃、カインさんがもう一人騎士の方を連れて、荷物を持ってやって来ました。
何やら荷物が増えているような気が……。
「遅くなってすまない。実は、出る直前に荷物が増えてしまったんだが、大丈夫かな?」
やはり、そうでしたか。
「これくらいなら、大丈夫ですよ」
荷物が嵩張り、一人では持てなくなったので、もう一人の騎士、ベイルさんと一緒に持って来たようです。
そして、さすが騎士の方ですね。紳士です。
私がアイテムを確認しやすいよう、袋から出し種類ごとに数えやすいように並べてくれました。
しかも、買取の計算が済むと、倉庫まで荷物を運び入れてくれました!
「では、合計で255Gになります。荷物を運んで頂き、助かりました」
「いや、こちらこそありがとう」
買取のお金を渡すと、お礼のつもりなのか、カインさんは『リンゴ』と『蜂蜜』を、ベイルさんは『薬草』と『クラッカー』を買って帰られました。
カインさん、実は甘党なのでは?
さて、お店を閉めて、今日の売り上げ計算と、在庫のチェックをするとしますか。