38 初級ダンジョンのボスが登場(画像あり)
防具屋の息子さんが帰ると、今度は疲れた顔のベイルさんが来られました。
「ちょっと欲しいものがあるのだが……」
「どうされたのですか?」
なんだか言いにくそうにしています。
おそらく、カインさんと何かあったのだと思うのですが……。
「ああ、その前に『鉄のナイフ』『鉄の剣』『木の杖』を……ついでに『木の棒』も、それぞれ四個買おう」
「ありがとうございます。でも、こちらからお願いしたことなのに、買っていただいて本当に良かったのでしょうか?」
カインさんにお願いした武器や防具の強度チェックですが、カインさんが言っていたように、ベイルさんも動いて下さるようです。
「ああ、それはあの経費で……いや、何でもない。心配はいらない。ついでに新しいマップがあればそれも買おう」
なんだか気になる単語が聞こえてきましたが……ここは聞き流しましょう。
私は何も聞いていませんということで。
お礼を言って武器とマップを渡します。
「地下九階と十階のマップですが、十階のマップは、後日100Gで完成品と差し替えますので」
「分かった。……それで、欲しいもののことだが」
そんなに言いにくい物なのでしょうか?
そんなにもったいぶられると、心配になってくるのですが。
「すまないが、何か甘い食べ物を作ってくれないか?」
「甘い食べ物ですか? お菓子屋さんではなく、私が作ったものですか?」
「そうだ。このままでは明日に差し障るから、何とかするためにも頼む」
いや、そんなに頭を下げていただかなくても、それくらいはすぐできますが。
ん? 明日に差し障る?
……これはやはりカインさんがらみでは?
「いや、心配するな。その……食べ物の恨みは凄いということだ」
私が少し不思議に思っていると、ベイルさんが少し慌てたようです。
それにしてもなぜ私なのか。
お菓子屋さんに行く方がいいと思うのですが?
まあ、これ以上は聞かない方がよさそうな雰囲気ですね。
「今すぐできるとなると、自家製ジャムを使ったホットケーキですけど、それでいいでしょうか?」
「ああ、お金は払うからそれで頼む。この皿を使ってくれ」
いやいや、お金を頂くほどの物でもないのですが……どうやら受け取った方がよさげな雰囲気ですね。
それにしても、こんな可愛らしいお皿を持参とは驚きです。
少しの間ベイルさんに店番を頼み台所へ行き、カインさん好みに甘~く作りました。
料理を手渡すと、ベイルさんの顔に精気が戻ってきたようです。
「助かった。ありがとう」
そう言って、ベイルさんは500Gを置かれました……。
いやいや、こんな金額困るのですが!
私が金額を減らそうとするのが分かっていたのか、ベイルさんはあっという間に帰られました。
まったく……。今回だけですからね!
ベイルさんが帰ってからしばらくして、初級ダンジョン帰りのメンバーがやってきました。
どうやら順調に進んでいるようです。
面白三人組の男の子達の方は地下七階のマップを買い、似た者四人組の女の子達は地下四階と五階のマップを買って帰りました。
その後、すぐにシェイラとジンが来て、立て続けに中級ダンジョン帰りの人達も来られました。
シェイラとジンは、今日のボス戦に備えて早めに切り上げたようです。
中級ダンジョン帰りの人達の買い取りも、思ったより早く済んだので、もう店を閉めることにします。
夕食をシェイラとジンと一緒に食べたら、いよいよボス戦です!
◇◇◇
やって参りました。
この扉を開けるとボス戦です!
「なんだか緊張してきた~!」
シェイラが言うものだから、私も緊張してきました。
「落ち着け、練習通りすれば大丈夫だ。深呼吸したらいい」
ジンの言葉でシェイラと二人で深呼吸をします。
「ありがとう。落ち着いてきたよ。ジン、よろしく!」
私が声をかけると、ジンが扉に手をかけ、ゆっくりと開いていきます。
事前の情報収拾で、扉を開けてもすぐには戦闘にならないと聞いていたので、落ち着いて中に入ります。
中に入って、扉が勝手に閉まってから、初級ダンジョンのボスであるドラゴンが出てくるそうです。
先頭にジン、次にシェイラで、私が最後に入ります。
中に入ると、扉がゆっくりと閉まり始めたので、戦闘の準備に取りかかります。
ジンとシェイラが前に立ち、私をかばうように『大きな鍋のフタ』を構えます。
念のため、私も『大きな鍋のフタ』を構えておきます。
完全に扉が閉まると、部屋の奥の岩陰から、ドラゴンが出てきました。
……ドラゴンですよね?
岩陰から、トカゲのような動きで目の前まで来ると、二本足で立ち上がりました。
……私と同じくらいの大きさです。
背中に翼があるのに、空は飛ばないようです。
それにしても、見れば見るほど……つぶらな瞳です。
いけない、油断は大敵です!
そろそろファイヤーが来るはずです。
「ギャオーーーー!!」
叫び声の直後に、ファイヤーが飛んできました。
「まかせろ!」
ジンがうまくファイヤーを弾いてくれました。
弾いた炎はドラゴンの後ろの方に飛んでいき、壁にぶつかって消えました。
それはともかく……ドラゴンさん、それ、鳴き声ではないですよね?
思いっきり、「ギャオー」としゃっべってますよね?
「いくよ、コールド!」
練習通りに、わたしがコールドをぶつけると、「ギャオー」と言いながら動きが鈍くなっています。
……それ、わざと動きを鈍くしているのでは?
「いくぞ!」
私の魔法の後は、ジンの攻撃です。
シェイラは私の前で盾を構えて、いつでもヒールができるようにしておきます。
私はジンの攻撃が済み次第、再びコールドをドラゴンさんにぶつけないといけません。
「ギャオーーーー!!」
どうやらジンの攻撃が効いたようです。
……効いたのですよね?
それ、本当に剣で切れていますか?
血の様なモノは出ていますが、皮膚が切れていないように見えるのですが?
「サラサ、今だ!」
ジンが下がりかけたタイミングで、再びコールドをぶつけました。
「ギャオーーーー!!」
どうやら決まったようです……あれ?
「や~ら~れ~た~……」
ちょっと!
それ言っちゃダメでしょう!!
ドラゴンさんは、「やられた」と言いながら、横に倒れていきました……。
「あれ? もう終わり?」
「あ、ああ。そうみたいだな」
シェイラとジンが驚いています。
いや、ちょっとあっけなさ過ぎるのでは?
ドラゴンさんがバタッと倒れたとき、地面に鼻の辺りをぶつけてしまったのか、両手で鼻の辺りを押さえながら消えていきました……。
今、私の顔はきっとこわばっていると思います。
戦いの間中、ずーーっと笑いたいのを我慢していましたからね!
お願いです!
誰か!
ドラゴンさんに演技指導をしてあげてください!!
読んで頂きありがとうございます。
評価とブクマをして頂きありがとうございます。
やっと初級ダンジョンのボス戦まできました。
本当はボス戦が終わった後までいく予定でしたが……。
なぜかベイルさんが出てきてしまったので、次回へ持ち越しです。