36 カインさんに相談
防具屋から帰ってきてしばらくすると、カインさんが来られました。
カインさんはどうやら『蜂蜜』と『クッキー』を買われるようです。
……甘党のカインさんの食生活が気になります。
いけない、そんなことを気にしている場合ではありません。
せっかくカインさんが来られたのですから、忘れないうちにあの相談をしなければ!
「カインさんに頼みたいことがあるのですが、お時間よろしいでしょうか?」
「ああ、時間なら大丈夫だ。レオンがまた何か言ってきたのか?」
カインさんが心配そうな表情になってしまいました。
レオンさん関係ではないのでご安心下さい。
「いえ、別件です。実は、ダンジョンで手に入る武器や防具について少し確かめたいことがあるのです」
「確かめたいこと?」
カインさんには想像がつかないようで、首をかしげておられます。
ゴブさんから聞いた全てを話すわけにはいきませんので、うまく伝えねばなりません。
「ダンジョンで手に入った武器や防具を、ダンジョン以外で使用されたことはありますか?」
私の質問が意外だったのか、少し考え込まれておられます。
「……あまり気にしたことがなかったからなあ。確か『鉄のナイフ』と『鉄の剣』を使ったことがあるくらいかな」
騎士団に入り、支給品を使用するようになってからは使っていないとのことでした。
私はそこでふと、あることを思い出しました。
ダンジョンで戦う場合、ダンジョンで手に入ったアイテムを使う方が、効果があるらしいという話です。
これ、誰が言い出した話なのでしょうか?
ひょっとして……。
ダンジョンでは、ダンジョンのアイテムを使って欲しいわけがあったのでは?
本当は、ダンジョンの中でも外でも効果が変わらなかったら?
これって試さない方がいいのでしょうか?
いやでも、武器が売れないと困りますし……。
ダンジョンのアイテムを、ダンジョン以外で使うことのみに関してなら大丈夫かな?
悩んでいても仕方ありません。
私は商売人です。アイテムを売らねばならないのです!
先に心の中で謝っておきます。
ゴブさん達ごめんなさい。また後日、きちんと報告しますので!
「ダンジョンで手に入った武器や防具は、意外と頑丈なのではないかと思うのです」
「そうなのか? ダンジョンの中では壊れたりするのにか?」
そうなのですよ~。そこの事情を詳しく話せないのが辛いところです。
まさか壊れたアイテムにすり替えられているとは、誰も気がついていませんからね。
少し嘘も混ぜながらの説明になってしまいますが、そこは仕方がないということでお許し下さい。
「ちょっとした知り合いから、ダンジョンの外では壊れにくいと聞いたので確かめてみたいのです。もしよろしければ、まずは初級ダンジョンで手に入る武器をお渡ししますので、試してみてはもらえないでしょうか?」
「そうか……。まあそれは構わないが、少し時間をもらいたいな。どうやって試すかも決めた方がいいしな」
「ありがとうございます。急ぎませんのでよろしくお願いします!」
さすがカインさんです。今度、御礼に甘いおやつを差し入れしますので!
「それから、必要な武器はちゃんと買うから」
「それは助かりますが、よろしいのでしょうか?」
どうやらその辺はベイルさんを巻き込んで、いろいろとして下さるようです。
どうもベイルさんに何かさせたいことがあるようです。
ベイルさんはカインさんに何かしたのでしょうか?
「準備ができたらまた来るよ」
何か思いついたのか、とてもいい笑顔で帰っていかれました。
……何となく、ベイルさんのご無事を祈っておきます。
カインさんが帰ってから、ダンジョン帰りの人達が来られるまでの間は、午前中と同じような売れ行きでした。
ただ、お一人、『蜂蜜』『リンゴ』『ミカン』『クッキー』『クラッカー』のまとめ買いをして帰られました。
お菓子屋のご主人です。
ものすごく体格の良い、ヒゲを生やした厳つい顔の男性だったので、とても印象に残っています。お菓子屋さんで思わず二度見しましたから。
可愛らしい動物をかたどったお菓子や、綺麗な花をかたどったお菓子など、とても繊細な仕事をされます。
リケットさんの店の南隣の店なので、薬草料理に何か触発されたのかもしれません。
お菓子屋のご主人はとても寡黙な方です。
表情もほぼ変わらないので、何を考えているのか分かりづらい方です。
なので、私は勝手に推測しています。ダンジョンの食べ物で、何か新しい創作お菓子が出来るのではないかと。
私は密かに期待しているのです!
今後、要チェックの人物です!
◇◇◇
初級と中級のダンジョン帰りの人達が、アイテムを売って帰るというサイクルが、ようやく出来つつあります。
今日は皆さん同じようなタイミングになってしまいました。
店員は私一人なので、お客さんを待たせてしまうなあと思っていると、とても良いタイミングでシェイラとジンが来てくれました。
シェイラとジンは私の店のことをよく分かってくれているので、すぐに手伝ってくれました。
「ありがとう、二人が来てくれて助かったよ」
「これ位のことなら、いつでも声をかけてくれ」
「そうだよ~。困ったときはお互いさまだよ~」
有難いことです。
アイテムを売る方はそんなに手間はかからないのですが、アイテムの買い取りには多少時間がかかってしまいます。
今後、もっと買い取りが増えたら、夕方だけでも誰か人を雇わないといけなくなるかもしれません。
いざとなったら妹を呼ぼうか……。
あの似た者四人組の女の子達ではなく、実の妹の方です。
そういえば、あの女の子達が私の事を「お姉様!」とか呼ぶものだから、お客さん達の注目の的になってしまいました。
シェイラとジンは事情を聞いて爆笑するし……。
ですから、私はそちらの趣味はありませんから!
「どう? そろそろお店閉められそう?」
お客が全員帰ったので、シェイラが聞いてきました。
「ありがとう、もう閉めるね。私も夕食一緒に食べたいから、先に宿に帰って私の分も注文しておいて欲しいな。お金は合流した時に渡すね」
そういうことで、シェイラとジンには先に宿へと帰ってもらいました。
シェイラとジンのアイテムの買い取りがまだ残っていたので、それらをサッとすませ、私も急いで合流しました。
夕食を食べながら今晩の予定の打ち合わせです。
どうやら二人ともレベルを上げるために頑張ったようですが、まだレベルが上がらないようです。
「もうすぐレベルが上がる気はするんだけどな~」
シェイラの感覚は優れているので、今日中には二人ともレベルが上がるかもしれませんね。
「いろいろと情報を集めたが、おそらく剣で戦うにはレベル11以上が必要で、魔法の場合はレベル10でも倒せたことがあるらしい」
ジンが調べた感じでは、私がコールドの魔法を使えるので、レベルが10でも倒せるかもしれないということでした。
私からの情報としては、今日の防具屋のご主人との話を伝えました。
「ということは、二人がレベル11になれば、明日の夜はボスに挑んでも大丈夫かもしれないということ?」
「そうだ」
「そういうこと~」
希望が見えてきました。
皆の顔がやる気に満ちています!
さあ、夕食を食べ終わったので、ダンジョンへ行きますよ!
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