23 不自然な戦闘
9月9日誤字訂正。
シェイラとジンと合流した後、リケットさんのお店で昼食を食べました。
この町の名物料理となりつつある、薬草が入ったスープも食べました。
トマトベースで薬草以外の具もいろいろ入っており、とても美味しかったです。
食事の後、装備を整えて初級ダンジョンへと向かいました。
「サラサもレベル9なら、今日は地下九階まで行っちゃおうか?」
「そうだな、三人なら大丈夫だろう」
私がレベル9になっていることを伝えると、今日は地下九階に挑戦することになりました。
ゴブさんの話を聞いた後だった事もあり、地下九階まで行く道中、改めて戦う相手を観察してみました。
ゴブリンをよく見ると、やはりゴブさんと似ています。
見ていて気付いたのですが、ゴブさん以外にも基となったゴブリンさんがいるようです。
レッドウルフやスケルトンも、ウルさんとスケさん以外にも基となった方がいるようです。
さすがにスライムの違いは分かりませんでした。
ゴブさん達との大きな違いは何かというと、表情と雰囲気でしょうか。
戦っている小さいゴブリンやレッドウルフは、目に感情がなく、口からヨダレが垂れ、理性の無い生き物に見えます。スライムやスケルトンも禍々しい雰囲気です。
しかし、戦い終わる時の姿を見ていると、とても不自然なことに気付きました。
なんと言えばいいのか……。そう、芝居を見ているような感じです。
子供の頃、家族で芝居を見に行ったことがあります。
内容は覚えていませんが、戦いの場面で剣で切られた人が、切られたことを大げさに表現しながら倒れていたのを思い出しました。
倒された魔物達もそんな感じです。
剣でやられようが、魔法でやられようが、最後の体勢が一緒のような気が……。
ゴブリン達は、演技指導でも受けたのでしょうか?
最後の体勢のまま姿が徐々に薄れていき、魔物がいた場所にお金が出現します。たまにアイテムも出現します。
魔物の姿は残りません。
今まで、なぜ誰もこの不自然さをおかしいと思わなかったのでしょうか?
「サラサ~、さっきからどうしたの~?」
しまった、シェイラが心配そうにこちらを見ています。
もう少しで、戦闘後に笑い出すおかしな人になるところでした。
演技指導を受けているゴブさん達の姿を想像してしまったとは言えません。
どう言って誤魔化しましょう……。
「いや今更だけど、何で魔物の姿が残らないんだろうって思ってね」
「そう言われればそうだな」
ジンも初めて疑問に思ったようです。
「え~? それはダンジョンだからでしょう?」
シェイラがあっさりと考えるのを放棄しています。
まあ、要するにそういうことなのでしょう。
皆「ダンジョンの中で起こった事だから」と、考えるのを放棄してしまっているのです。
ゴブさん達の事を話すわけにもいきませんので、この話しはこれで終わりにします。
さて、いよいよ地下九階です。
地下九階の様子は、地下八階とよく似ています。
魔物については、ゴブリンの数が減り、その代わりにバタフライが登場しました。
「も~! なんで当たらないかな!」
シェイラが少しイライラしています。
フライさんの半分くらいの大きさで、フライさんと違ってよく動き回るバタフライは、とても厄介な存在です。
剣を動かす時のわずかな風に乗って、ヒラリヒラリと攻撃をよけてしまうのです。
「うわっ! し……痺れた……」
ジンの動きが鈍っています。
そう、このバタフライ、攻撃力はないのですが、鱗粉を掛けてくるのです!
その鱗粉を被ってしまうと、痺れて動きが鈍るのです。
痺れるのは短時間なのですが、その間にスケルトンの攻撃を受けてしまいます。
バタフライが出てくる時は、必ずスケルトンの頭上に乗って登場します。
……どこかで見たことのある風景です。
「サラサ、ファイヤー!」
はっ! いけない。いろいろ気になりすぎて、戦闘に集中できていませんでした。
「いくよ、ファイヤー!」
予想通りといいますか、バタフライの弱点は魔法攻撃のようです。
初級ダンジョンの魔物は、基本的にファイヤーに弱いようです。
ファイヤーの直撃を受けたバタフライは、小さく回転しながら落ちていき、地面で仰向けになり、ガクッと力尽きました。
……素晴らしい演技力です。
地下九階では、魔物は必ずコンビで出てくるようです。
ゴブリンはレッドウルフに乗り、スケルトンもレッドウルフに乗っています。
このレッドウルフに乗っているゴブリン、顔はゴブさんに似ていますが、ゴブさんが基ではないはずです。
おそらく……とてもスタイリッシュなゴブリンさんを基にされたはずです。
集中できないながらも、なんとか魔物を全て倒し、アイテムマップの作製に取りかかります。
地下九階では、『腐った食物』意外、もう一つ新たにアイテムが手に入るはずです。
はずなのですが……。
「これ、『白いブレスレット』だけど、何の『白いブレスレット』なのかな~?」
シェイラの質問に、今の私は答えることができません。
ここでアイテム本は開けませんから、なんとかはぐらかしましょう。
「う~ん。まだこれから手に入るだろうし、後でまとめて確認した方がいいかな。店に帰ってから、ゆっくり確認するよ」
「それもそうだな。バタフライを剣でも倒せるようになるまで、しばらく地下九階で戦った方がいいだろうな」
ジンの言葉に賛成し、地下九階を中心に動くことになりました。
◇◇◇
夕食前に店へと戻って来ました。
荷物を置いた後、シェイラとジンが泊まっている宿で一緒に夕食を食べました。
明日の朝お店に寄るそうなので、いつものように、アイテムの買い取り金はその時に渡すことになりました。
さて、アイテムの確認です。
どんな『白いブレスレット』が手に入ったのか、早速確認してみます。
十個は『白いブレスレット:攻』と『白いブレスレット:魔攻』でしたが、新しい『白いブレスレット』が三個ありました。詳細を調べてみます。
『アイテムNo.19 白いブレスレット:防・三個
価格:1000G 初回入手可能階:九階
……白い何かで作った玉が連なったブレスレット。物理防御アップの魔力が込められている。物理防御に1プラス』
物理防御アップでした。これも1プラスされる程度ですが、今している物理攻撃アップの物と変えようと思います。
外した『白いブレスレット:攻』は売ってもいいのですが、もうしばらくは持っておくことにします。
ここまでくると、残りのアイテム二種類が何なのかは、想像できてしまいました。