22 謎の部屋の情報
9月5日誤字訂正。
私が次に何を聞こうかと考えていると、ゴブリンさんが申し訳なさそうにこちらを見ています。
「何でしょうか?」
「実はこれから別の客が来るだー。あまり時間がないだー」
「ポヨー。ポヨー」
そういえばここに来たとき、私を誰かと勘違いしていたような気がします。
大切なお客が来るのでしょう。
よく分かりませんが、スライムさんが激しく揺れています。
「分かりました。またこちらに来てもいいですか?」
私が尋ねると、それは大丈夫だということです。
「その本を持ってればだー、どこでも入れるだー」
「ポヨヨー」
え? どこでも入れる?
ゴブリンさんの言葉にびっくりです!
「どこでも入れるというのは、このような部屋が他にもあるということですか?」
「そうだー。ただし、一人の時だけだー」
「ポヨー」
肯定の意味なのか、スライムさんが上下に揺れています。
「初級ダンジョンの地下五階には、この部屋を含めて三部屋ありますか?」
「あるだー」
「ポヨー」
スライムさんが上下に揺れすぎて、今は弾んでいるだけのように見えてしまいます。
「初級ダンジョンの地下五階以外には、どこにあるのですか?」
「それはまだ教えられないだー。情報制限があるだー」
「ポヨポヨー」
情報制限? まだ知る資格が無いということでしょうか?
「では『休憩所』の貼り紙がある部屋は、私以外は休憩できないのですか?」
「『休憩所』だけは条件次第で誰でも入れるだー。一人でいることは絶対だー。本が無くてもそこのダンジョンのボスよりレベルが低いと入れるだー」
「ポヨー」
頭上であんなにスライムさんが跳ねて、ゴブリンさんは痛くないのでしょうか。
「本を持っていない人でも、ボスよりレベルの低い冒険者が一人で『休憩所』へ行けば、中に入れるということですね? レベルはどれ位ですか?」
「そうだー。レベルは自分で調べるだー」
「ポヨー」
これも情報制限なのでしょう。
ゴブリンさんが「そこのダンジョン」と言っていたので、初級ダンジョン以外のダンジョンにもあるからだと推測できます。
それにしても、これでは利用できる人が限られます。
……というか、一人でダンジョンに入る人はほとんどいないので、私以外利用する人がいないかもしれません。
まあ、元々そこまで必要とされるものでもないので、問題はないのでしょう。
……そうか、もしかすると、元々はアイテム本を持った人の為に用意された部屋なのかもしれませんね。
そうなると……アイテムマップに『休憩所』の情報を書くかどうかは、また後で考えましょう。
「情報ありがとうございます。今日はこれで帰りますが、また来たい時はどうしたらいいですか?」
そろそろ帰った方がよさそうな感じなので、ここへの正しい入り方を聞いておくことにします。
「こっちに来るだー」
ゴブリンさんはそう言うと、入口のある所へ行き、ドアの開閉の仕方を教えてくれました。
ドアを二回ノックすれば、中からドアを開けてくれるそうです。
帰る時はドアの横にある出っ張りを押せば開くようです。部屋の奥でもドアを開閉できるようですが、そちらは魔物専用とのことです。
……あれ? そういえばスライムさんはどこへ?
「ポヨーーーー!」
スライムさんが上から落ちてきました。
先程までいた机で跳ね上がり、再びゴブリンさんの頭の上に戻ってきました。
どうやら勢いよく跳ね上がりすぎて、しばらく天井にくっついてしまっていたようです。
「私の名前はサラサです。また来ますので、よろしくお願いします」
魔物に名前を伝えることが必要かどうかは分かりませんが、ここのゴブリンさんとスライムさんとは仲良くなれそうなので、とりあえず名乗っておきました。
「名前かー? ボスの中のボスがくれただー。ライムとゴブだー」
「ポヨー」
ボスの中のボス? なんだか凄そうなボスです。
というか、名前があったのですね。しかも、とても分かりやすい名前です。
スライムのライムさんに、ゴブリンのゴブさんです。
……ボスの中のボスさんは、名前を付けるのが苦手なのではないでしょうか?
ライムさんとゴブさんと別れを告げた後、今度は南西の部屋に行ってみることにしました。
南西の部屋の北側に『関係者以外、立入禁止』の刻まれたドアを見つけました。
先程ゴブさんに教えてもらったように、ドアを二回ノックしました。
「ウォン!」
……鳴き声がします。ひょっとして、レッドウルフさん?
すぐにドアが開いたので、恐る恐る中へと入ります。
中は薄暗いのですが、壁や天井に生えた苔が青く淡く光っています。場所によっては赤いので、青と赤の淡い光が重なった場所では紫色になっています。
淡く光る苔の景色にしばらく見入ってしまい、気付くのが遅れました。
私の方をじっと見てます。
頭上に大きなリボンを付けたスケルトンさんと体の大きなレッドウルフさんです。
すぐに逃げられるようにするためなのか、顔だけこちらを向き、体は逃げ出せる体勢になっています。
「攻撃したりしないので、怖がらないで下さい。少し中を見学してもいいですか?」
レッドウルフさんとスケルトンさんも攻撃されないと分かったのか、近づいてきてくれました。
スケルトンさんはゴブさんと同じくらいの大きさです。
レッドウルフさんは腰くらいまでの高さですが、二本足で立ち上がれば、ゴブさんと同じくらいの大きさになるのではないでしょうか。
「ウォン!」
よろしくという事でしょうか? 尻尾を振っています。
その横ではスケルトンさんがカタカタ動いて握手を求めてきました。
私がスケルトンさんと握手をした後、レッドウルフさんが私の手の匂いを嗅いでいます。
「部屋の中を見て回っていいですか?」
どうも会話が出来そうにないので、見学だけさせてもらうことにします。
「ウォンウォン!」
ついてこいという意味でしょうか?
スケルトンさんも部屋の奥を指差し、カタカタ歩き出しました。
連れて行ってくれるようです。
案内に従ってついて行くと、畑がありました。
「これは、ダンジョン産の薬草ですか?」
「ウォン!」
どうやら正解のようです。スケルトンさんもカクカク頷いておられます。
まさかこんな場所で作っているとは思いませんでした。
この光る苔の明かりだけで薬草を育てるから、苦くない薬草ができるのでしょうか?
部屋の中を見て回りましたが、ここは薬草を育てるためだけの部屋のようで、他には何もありませんでした。
「ありがとう。私の名前はサラサです。また来てもいいですか?」
「ウォン!」
来てもいいという事でしょう。
スケルトンさんも身振り手振りで来ていいと伝えてくれています。
さらに何か伝えたいようですが、なんでしょうか?
「もしかして、名前を伝えたいのですか?」
ゴブさんとライムさんの事もあり、尋ねてみると、やはりそのようです。
でも、どうやって伝えようというのでしょうか?
「あなた方も、ボスの中のボスという方に名前を付けられたのですか?」
とりあえず聞いてみると、どうやらそのようです。
それならなんとか分かるかもしれません。
「名前を言ってみるので、合っていたら教えて下さいね」
「ウォン!」
まずはレッドウルフさんからです。
「レッド……違う? ウルフ……違う? 近い? ウル……正解?」
レッドウルフさんはウルさんと言われるそうです。
では次にスケルトンさんです。
「スケ……え? 正解?」
一回で正解しました。スケルトンさんはスケさんと言われるそうです。
「ウルさんとスケさん、ありがとう。また来るね……え? 何?」
スケさんが何やら自分の頭を指差しています。何を伝えたいのでしょうか?
頭? ……リボン?
あれ? ……薄暗くて気付かなかったけど、ひょっとしてリボンではない?
「もしかして……バタフライさんですか?」
なんとか正解にたどり着きました。
ずっとリボンだと思っていたのは、バタフライさんだったんですね。
少しも動かないので分かりませんでした。失礼しました。
それにしても大きいです。スケさんの頭と同じ大きさです。
「何? ……あ、名前ね。バタ……違う? フライ……正解?」
バタフライさんはフライさんと言われるそうです。
「ウルさん、スケさん、フライさん、またね。」
そう言うと、ウルさんは尻尾をパタパタと振り、スケさんは手をカタカタと振り、フライさんは羽をパタパタと振って見送ってくれました。
さて、もうすぐ昼食の時間になります。
一度店に戻って荷物を下ろし、シェイラとジンと合流です。