18 ある日、ある時、ある場所で②(カイン&ベイル)
8月26日一文追加。追加内容は後書きへ。
どこの城にも、隠し部屋や隠し通路は付きものだ。
エストロ町の中心にある城にも勿論ある。
主に、ここの領主と領主直属の密偵との密会に使われている。
領主直属の密偵は、普段は様々な場所に、それと知られず紛れ込んでいる。
「例の件はどうなった」
「予定通り、大手の商人で魔物と戦うこともできる人物の手元に」
「彼は動きそうか?」
「それが、彼の娘の方が興味を持ってしまい、娘が動いております」
「……使えそうか?」
「まだレベルは低いですが、魔法の才能があるようです」
「少し様子を見るか……。上手くいくよう、ある程度は手助けするように」
「承知しました」
領主より新たな密命を受けたベイルは、さてどうしたものかと考えながら、騎士団の詰め所へと足早に戻った。
あまり時間が無かったので、朝食は簡単なもので済ませた。
「ベイル、朝食は済んだのか? ほら、西門へ行くぞ!」
「ああ、すまないカイン。すぐ行く」
今日の朝食後から昼食後までの時間、二人は西門の担当だった。
二人は最近よくコンビを組まされる。実はベイルがそう仕向けているのだが。
交代してからの西門はいつもより暇だったが、門番が雑談して時間をつぶすわけにもいかないので、二人とも黙って立っていた。
カインはベイルと騎士になった時期が同じで、人柄も良く気の合う仲間だ。しかし、ベイルが密偵なのをカインは知らない。
カインがベイルと一緒にいると、ベイルの印象が薄くなるので何かと助かっていた。
ベイルは平凡な顔立ちで、濃い茶色の髪を耳にかからない程度に切っている。
体格は騎士達の平均的な体格である。
それに対し、カインは目立つ。銀色の髪を短く切り、ツンツンに立てている。
顔もそれなりに良く、体格もベイルより一回り大きいのではないだろうか。
そろそろ昼食という頃、一台の馬車がやって来た。
ベイルはその馬車に見覚えがあった。例の商人がよく利用する馬車だった。
「馬車の中を確認してくる」
カインはそう言うと、馬車の中の確認をしに行った。
ベイルが御者の確認を済ませてしばらくすると、カインが戻って来た。
お互い問題なしと確認し、馬車を通した。
しばらくすると交代の騎士が来たので、二人は詰め所へと帰ることになった。
「さっきの馬車に乗っていた女性が、ダンジョンアイテムの専門店を開くらしいぞ」
カインがそう言うと、ベイルはにやりと笑った。
「なんだ、好みの女性か?」
「な、なんでそうなるんだ!」
人間観察に長けているベイルの目は誤魔化せない。
「いいじゃないか。応援するぞ」
顔を赤くして、何か喋ろうと口をパクパクとさせているカインを見ながら、ベイルは心の中で今後の算段を立て始めた。
◇◇◇
店は無事開店したようだ。
ダンジョンアイテムを専門で取り扱う店とはどういう店なのか、誰も想像が出来なかった。
想像できないからこそ噂になり、初日から興味を持った客が来ているようだ。
店を切り盛りする女性の名前はサラサという。
ベイルはかなり前から名前を知っているが、カインには教えていない。
まあ店名に名前が入っていたので、さすがにカインも気付いてい……なさそうだった。
ベイルとしては、自然な形でサラサと知り合いになれたらそれでいい。
「カイン、今から休憩だが、彼女の店に行くのか?」
ベイルがにやりと笑いそう聞くと、カインは少し顔を赤くした。
「なんでそんな聞き方するかな。店に顔を出すと言ったからには行くつもりだ」
ベイルとしては、カインがサラサの手助けをしてくれれば助かるので、今後も大いに焚き付けていくつもりだった。
これ以上からかわれてはたまらないと、さっさと出掛けようとするカインを引き止めた。
「カイン、これ持って行ってくれ。ちょっとした仕事だ」
「おい……なんでこれを持って行くんだ?」
手渡したのは、道端に捨てられていたアイテムを拾い集めた物の一部だった。
「ダンジョンのアイテムなら、どんな物でも売買するんだろう? 今後の為にも、見本を見せて買い取ってくれるか聞いてきてくれ」
ベイルの言いたいことを理解したカインは、渋々ながらも荷物を持って行くのだった。
しばらくして帰ってきたカインは、とてもいい表情をしていた。
「彼女と上手くいったのか?」
「なんでまたそういう聞き方をする!」
ついカインをからかってしまうベイルだった。
「はは、悪い。その様子だと、買い取ってもらえそうだな」
「ああ、思っていたよりいい値段で買い取ってくれそうなんで驚いた。今日の閉店までに荷物をまとめて持っていくから手伝ってくれ」
「分かった。団長から許可貰ってくるから、他の連中に伝えてくれ」
騎士仲間に事情を伝えてアイテムをまとめていると、どんどん数が増えていき、一人では持てない量になってしまった。
「ベイル、持って行くのを手伝ってくれ」
こうして、自然な形でサラサと知り合う機会を得たベイルだった。
◇◇◇
「様子はどうだ?」
「まだ一日目ですが、今のところ順調なようです。ダンジョンで手に入るアイテムなら何でも買い取るようなので、冒険者の生活が今後変わってくると思います」
「そうか、ひとまず安心か。まずは冒険者にアイテム買い取りのことを広めていくように、騎士団長に言っておこう」
ここの領主は動くのが迅速である。
そのため、たまに部下が準備を整える前に物事が動いてしまう事がある。
今回は、ベイルがサラサにどうやって事情を伝えるか考えている間に、騎士団長へ指示が出てしまっていた。
しかも伝言ゲームのように、いつの間にか内容が微妙に変わっていた。
「何々……初めてダンジョンに行く前には『だんじょんショップ☆サラサ』へ必ず行かせ、学ばせること……? なんでそんなことになってるんだ?」
騎士団全員に配られた紙を読んで、首をかしげるベイルだった。
内容的にも、まずはサラサに事情説明しておかないといけないと思うのだが、誰も説明しに行っていないようだった。
仕方が無いので、せめて初心者が店に行く前に事情説明しに行こうとしたのだが……どうやら遅かったようだ。
「事後承諾になってしまったか。こんな時は……カインに頼もう」
人当たりの良いカインが行けば、上手くことが収まるだろう。
「さて、カインを焚き付けに行ってくるか」
事後承諾になってしまっていることは、黙っておこう。
その後、カインは何だかんだ言いながも事情説明をしに行き、ベイルの思惑通りになるのだった。
◇◇◇
サラサの店が開店して四日目、レオンが『だんじょんショップ☆サラサ』に気付いたようだった。
カインとベイルの二人が詰め所に戻る途中、サラサの店の近くまで来た時にそれは起こった。
「ベイル、手伝え」
ベイルは思わず他人の振りをしたくなったが、名前を呼ばれてはそうもいかない。
実は、レオンもまた領主直属の部下だ。
密偵ではないのだが、レオンとベイルがどういう知り合いなのか調べられるとちょっと困るのである。
二人だけならともかく、今ここにはカインがいる。
「……レオンさん。すみませんが、分かるように説明して下さい」
ベイルは仕方なく、あまり親しくない知り合い風を装い会話をすることにした。
「『ゴミ』を買うのに手をかせ。明日だ。後は店の店主に聞け」
自分の言いたいことだけ言うと、レオンはさっさと立ち去っていった。
ベイルは明日動けない。面倒なことになってしまった。
こういう時は、カインに仕事を振るにかぎる。
「カイン、よろしく」
「おい! どうしてそうなるんだ」
カインに嫌がられてしまった。
「これは、サラサさんと親しくなるチャンスだ! ダンジョンでデートして来たらどうだ?」
色々と焚き付けて、何とかカインをその気にさせることができた。
「もしサラサさんが何か迷っているようだったら、この言葉を伝えてくれ」
レオンは困ったやつだが、良い商売相手になると伝わればそれでいい。
言葉の選択を間違え、サラサに逆の意味に受け取られたのだが、ベイルの意図する方向へは持って行けたようなので、それはそれでよかったのだろう。
一文の追加内容は、事後承諾になっているのをカインに伝えていない件です。