14 ステラさん作の料理
昼食が済んでからしばらくして、ステラさんが串に刺した肉を手に持ってやって来ました。
「こんにちは、ステラさん」
挨拶が済むと、ステラさんがいきなり串に刺した肉を私に食べさせようとします。
「サラサちゃん、はい、あーん」
いや、あーんって、恥ずかしいんですけど!
そんな、キラキラした目で見ないで!
恥ずかしいけど……美味しそうだったので、ちゃんと食べました。
もぐもぐもぐもぐ。
「美味しいです! このピッグ煮」
何だろう、何かが確かに普通と違います。うーん、すぐには分からないです。
「そうでしょう! これね、うちの店の新商品にしようと思って作ってみたの!」
ステラさんのお店では、肉を使ったお惣菜も売られています。お惣菜は全てステラさんが作っているそうです。
私も買って食べたことがありますが、とても美味しいです。
「この町にダンジョンアイテムのお店が出来たし、リケット君の薬草料理の事もあって、エストロ町の名物料理を増やしたらどうかと思って作ってみたんだよ」
「ということは、ひょっとしていつも買われていた『蜂蜜』が入っているという事ですか!」
「そうそう、砂糖の代わりに使ってみたらあまりにも美味しくできたもんで、思わず持って来ちゃったよ」
それは嬉しいのですが、串にさして食べさせるのは控えて欲しかったかも。
どうやらステラさん、美味しさの感動を伝えたくて数人に突撃試食をしてきたらしいです。
「明日から早速メニューに加えようと思ってるんだよ。今後、定期的に『蜂蜜』をまとめ買いしていっても大丈夫かい?」
「はい、それは大丈夫です。どれ位になりそうですか?」
どうやら、他にも色々作ってみたいようで、今日はとりあえず十個買って帰るようです。
「サラサちゃんのお店の定休日は分かっているから、無くなりそうになったら買う前日に必要な数知らせるんで、それでいいかい?」
「はい、それで大丈夫だと思います。新商品買いに行きますね」
ステラさんは、とても良い笑顔で帰られました。
それから何人かのお客さんが来られました。
その中に、ダンジョンのアイテムを扱う店が出来たと聞きつけた商人の方がいて、『薬草』『蜂蜜』『リンゴ』『クッキー』『クラッカー』を、それぞれ十個買っていかれました。
情報源はニコラさんのようです。有難いことです。
そうこうしていると、今日のダンジョン探索を終えた三人組がアイテムを売りにやって来ました。
「アイテムの買い取りお願いします!」
リーダーが元気よく言って、三人がカウンターにアイテムを出してきました。
「初ダンジョンはどうでした?」
三人とも楽しそうだったので、良い体験が出来たのでしょう。
ダンジョンの感想を聞きながら、アイテムの確認をしていきます。
「アイテムマップがとても役に立ちました!」
小柄な子がそう言うと、リーダーもさらにマップを絶賛してくれます。
「こんなにアイテムが手に入るとは思いませんでした! 持ちきれなくて、いくらか置いて来たほどです。」
大柄な子は、二人の言葉を聞きながら、大きく頷いて感謝の言葉をくれました。
アイテムを見ていると、『木の棒』があったので、すでに地下二階まで行ったようです。
なぜかこの子達は『ゴミ』を一個持ち帰っています。おそらく置いてきたアイテムとは、幾つかの『ゴミ』と『魔物の肉』だと思います。
「もう地下二階まで行けたのですね」
「はい、マップで魔物の位置も大体分かるので無理はしていません」
私の言葉に小柄な子が答えてくれました。どうやら彼が斥候係のようです。
さて、アイテムの確認が出来たので、金額を伝えます。
「アイテムの買い取り金額が計算できました。全部で5,526Gになります」
初回としては良いのではないでしょうか?
「アイテムが持てなくなる度に売りに来るのも大変ですから、斡旋所でアイテムバックを借りたらいいですよ。一つ借りるのに100Gかかりますが、今日の倍アイテムを持ち帰れます。今回のように、『木の棒』が背負い袋からはみ出すことも無いですよ」
私が伝えると、三人は感動しているようです。
「これって、元が取れるようになるのもすぐかも……」
三人組は、シェイラとジンが利用している宿よりも安い宿に泊まっているようです。
シェイラとジンが利用している宿が、一泊二食付きで一人4,000Gなのに対し、三人組が利用している宿は、一泊朝食付きで一人3,000Gのようです。
おそらく、三人部屋なのと朝しか食事がないことで、1,000G安いのでしょう。
「それから、『折れた棒』は薪にもなり普通の薪より火持ちがいいですから、食事代を少し値引きしてくれるはずです」
三人組に、さらにお得情報を伝えておきます。
ジンから『折れた棒』に関する情報を貰っているので、薪サイズに切ってから宿の人に渡すとさらに良いということも伝えておきます。
「か、買います!」
良いお客さんです。一人一個買ってくれました。
ついでに、お店の定休日も伝えておきました。
「ダンっていいます。こっちがルークで、こっちがコルトです」
帰る為に店の扉前まで行った辺りで、いきなりリーダーが真っ赤な顔で自己紹介を始めました。小柄な子がルーク君で、大柄な子がコルト君だそうです。
そうなると、私も名前を伝えておいた方がいいのでしょう。
「私はサラサといいます。またのご来店お待ちしています」
ダン君は、ルーク君とコルト君に両脇を抱えられ、引きずられながら帰って行きました。
何だか面白い三人組です。
三人を見送っていると、カインさんがやって来ました。
「今の子達は新顔かい?」
挨拶をした後、すぐにカインさんがさっきの面白三人組について尋ねてきました。
「昨日町に来て、今日は朝からずっと初級ダンジョンへ行っていたようです」
「そうか、事後承諾になっちゃったか。さっきの子達から何か聞いた?」
「はい、初めてダンジョン行くなら、私の店に寄ってから行くように、騎士の方から言われたそうです」
私がそう言うと、カインさんは事情を説明してくれました。
「この町は、ダンジョンが三つあるにしては人が少ないだろう。良いアイテムも手に入り難く、ただレベル上げをする為だけのような扱いなんだ。あまりお金にならないから、冒険者や商人が町に居着かないんだ。観光客もほとんど来ないしね」
どうやらここ数日の私の行動や店の噂などの情報が、騎士団のお偉いさんの耳に入ったようです。情報が速いです。
ダンジョンのアイテムならどんなアイテムでも扱うという店が出来ることは、私が思っている以上に重要なことだったようです。
そして、私に事情説明する前に新人さんが来てしまったそうです。
なるほど。ステラさんが町の名物料理を作ろうとしているのも、その辺に関係してくるのではないかと推測します。
「もっと魅力ある暮らしやすい町にする為にも、協力してもらえると有難いんだが、どうかな?」
「はい、私に出来ることでしたら協力しますよ」
私がそう言うと、カインさんは安心したようでした。
そうなると、ダンジョンアイテムの有効活用法をもっと編み出したいものです。
「ありがとう。じゃあ、今日は『蜂蜜』一個買って行くよ」
カインさん、『蜂蜜』買うペースが速いです。
私の中で、すでにカインさんは甘党です。しかしここは確認の為、カインさんに食べさせたい物があります。
「ありがとうございます。カインさん、良かったらこれ食べて下さい」
そう言って、私は自分で作ったおやつを差し出しました。
サンドイッチ用のパンに、甘~いリンゴジャムをたっぷり塗り、クルッと巻いて一口サイズに切った物です。
カインさんは、その場ですぐに、とても良い笑顔で完食されました。
「美味しかったよ。ありがとう」
そう言って、カインさんは『蜂蜜』を持って帰られました。
カインさん甘党説は確定事項となりました。