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異世界の落としもの、返却いたします  作者:
一章『遺愛の指輪』

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十五話

 

「とりあえず準備ができ次第『イゾルティア』渡ることにしようかと」


「うむ。ではいつものように」


「はい」


 葵が離れてようやく人心地着いたリオンは、ロウと葵の淡々としたやりとりを聞きながら、どこか他人事のようにぼんやりと眺めていた。


 話を聞けば聞くほど現実味のないお伽噺のようだ、リオンはそう思いながらプチプチと弾ける不思議な飲料を少しずつ口にする。

 何を原料にしているのかよくわからない甘い飲み物も、机の上に並ぶ豪華な食事も、身に纏う上等な召し物も、あの頃には手に入らなかったものばかり。

 どれも自分にとってあまりにも縁遠い世界に感じて、いまだに信じきれないのだ。何もかもが目まぐるしく変わりすぎたせいか、身体と心が噛み合わない。少しばかり甘美な夢を見ているのだと思った方が幾分かは納得できるくらいだ。


 そんなことを悶々と考えていると、葵がリオンの方へと向き直したかと思いきや、何故か呆れたような顔をしながらリオンの額を指でトンと突く。


「ちょっとリオン、自分は関係ないって顔してるけど、君も行くんだからね?」


「へっ?」


「この流れで君が行かないわけがないでしょうが」


「えっ、えー……でも、まだ何もわからないというか、その、足手まといになるのでは?」


 突然話を振られたリオンは、その内容に驚いたようにパチパチと瞬きをする。

 見るものから身につける物まで全てにおいて初めて尽くしの数日間はリオンにとって驚きの連続で、正直に言うと慣れる慣れない以前の問題だ。そんな慣れない環境を重ねればどこかに無理が生じて弱みに繋がる。それがわからない葵ではないだろうに、彼女は何も知らないリオンをすぐにでも異世界へ連れていくのだとあっけらかんと言ってのけた。


「まぁ、なんとかなるって! 何事も経験、経験!」


「えー……」


 リオンは言葉を返す気力もなくガックリと肩を落とす。どうやら彼女の言う教えとやらは相当なスパルタなようだ。

 果たしてこの先上手くやっていけるのかと脳裏に様々な不安が過ぎりつつも、出そうになるため息を無理やり押し込めるように目の前の食べ物を口に運ぶ。

 この世界の食べ物はどれを口にしても美味いなぁなどと現実逃避を決め込んだリオン。そんな様子をケラケラと笑いながら見ている上司の空気の読めなさに、リオンは恨めしさを滲ませながらジトリと睨みつけた。


「もーそんな顔しないでよぅ。私だって未知の世界は怖いんだよ? なにがあるかわからないし、どんなものが居るのかもはっきりしない。前情報なんて無いに等しいわけだし、培ってきた常識が通用しない場合だってある。でもそんな世界に一人で行かなくていいってのは、それだけで凄く心強いもんなの」


「一人で? ……あの、皆さんとは」


 そう言ってロウたちの方を見るが、彼らは一様に困ったような顔をしながら首を振る。


「一緒にはいかないよ? ロウ様たちにはロウ様たちの役割があるから」


「役割?」


「そう。ロウ様たちは地球に落ちてきた異物を見つけて回収することを役割としてる。んで、私の役割はそれを受け取り地球から排除すること。昔から決まっている役割を私の代で覆すことなんて怖くてできないよ」


「それじゃあ、今までは……」


「あぁ、仕事に慣れるまでは両親と一緒だったけど、今は一人かな。っていっても、今まではほとんど地球内での行動ばっかだったから、正直に言うと異世界で単独行動するのはまだまだ慣れてないの。なんたって書き置き一つで引き継ぎも何もあったもんじゃなかったからさ……はは」


 フッと自嘲するような笑みと共に遠い目をした葵は、瞳の奥を濁らせながら天井を仰ぐ。リオンはそんな彼女に少々たじろぎつつも、書き置き一つで煙のように消えてしまった彼女の両親の話を思い出して、あぁ、と相槌を打った。

 彼女の両親は元々かなりの自由人らしく、突然居なくなってはある日ひょっこりと帰ってくるということを幾度も繰り返していたらしい。それも彼女がまだ片手で数えるくらいの小さな頃からだと言うのだから驚きである。


「父さんなんかは昔からフラッと居なくなって数年帰ってこないこともあったからね。慣れてるんだけど……今回はいつもとちょっと違うんだよね」


「連絡は取れないんですか?」


「うん。地球に居るのか異世界にいるのかもわからないから……まぁあの人たちのことだし、生きてるとは思うけど」


 たいして心配していないような物言いをする葵に、ロウの瞳がほんの少しだけ揺れる。居なくなってしまった両親について、何か知っているようだと言うことは葵もわかっていたが、彼が言わないのであれば、まだ知るような時期ではないのだろうと軽く流して話を続けた。


「それにさ、リオンにとってもいい刺激になると思うよ?」


「刺激、ですか?」


 突然何を言うのだろうと首を傾げてみれば、葵はリオンの頭に手を伸ばし、冬の夕焼け色をした彼の髪をスルリ撫でながら慈しむような微笑みを向ける。


「うん。今のリオンは育った環境の所為で命令されることに慣れ過ぎてる。凄く狭い世界で、窮屈に生きてきたから、今だって私が選択肢を用意しないと動けない。違う?」


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